第45話★お兄ちゃんの受難〜side翔〜パート2




ーーードサッ


「……っ……! 」


床に転がった俺は瞼をしばたかせると、ぶつけた肩をさすりながらゆっくりと上半身を起こす。


「……夢……か……? 」


今しがた自分が寝ていたのであろうベッドを眺め、ポツリと小さな声を漏らす。


「なんて夢見てんだよ……っ」


グシャリと前髪を掴むと、ドクドクと早鐘を打つ胸にそっと手を当ててみる。

それは普段と比べると尋常じゃないぐらいの速さで、余程の動揺があったのだと自分でもわかる。


夢で良かった……。

そう思うと安堵から大きく溜息を吐いた。


俺は暫く床に座ったまま気分を落ち着かせると、ふらりと立ち上がってリビングへと向かう。


ーーーカチャッ


扉を開けるとそこには花音と響がいて、普段と変わらない光景にホッと息を吐く。


俺はグラスにジュースを注ぐと二人のいるリビングまで行き、ソファに腰を下ろして上から二人の姿を眺めた。


床に広げた幾つかのパンフレットを眺め、床に座った花音と響が何やら楽しそうに話している。


どうやら、高校卒業祝いとホワイトデーを兼ねて何処かに遊びに行く計画を立てているようだ。


「花音、せっかくだから遠出しない? 」

「でも……そしたら泊まりになっちゃうし高くなるよ? 」

「大丈夫だよー、お金ならあるから」

「うん……でもやっぱり……」

「どうしたの? 花音」


……お前を警戒してるんだよ。


泊まりになるデートなんて花音が行く訳ないだろ?

そんな事したらすぐお前に食われるだろ。

花音だってそのぐらい気付いてるんだよ、アホ。


二人の会話を黙って見守る俺は、そんな事を思いながらジュースを口にする。


「だって卒業祝いも兼ねてるのに、ひぃくんにそんなにお金出して貰うのは悪いよ……」

「そんな事気にしなくて大丈夫だよ。俺は花音と一緒にいられればそれだけで幸せだから。USO行きたがってたでしょ? 一緒に行こうよ。……ね? 花音 」


ヘラッと笑った響は、そう言うと小首を傾げて花音を見つめる。


だから行く訳ないだろ……バカ響。


必死に花音を口説き落とそうとする響を見て、フッと鼻で笑った俺は再びジュースを口に入れた。


「うん……。じゃあ、行くっ! USO楽しみだねっ! 」

「うん、楽しみだねー」


ーーー!!?ブーッ!


嘘だろっ!? 何考えてるんだよ、花音っ!!

あの夢はまさか……っ正夢になるのか……!?


「ぅわっ!? お兄ちゃん汚いっ! やだもぉー! 」

「翔汚いよーっ! ジュース飛ばさないでよー! 」


足元でワーワーと騒ぎ出す二人を見て、俺は口元のジュースを拭うと花音の肩をガシッと掴んだ。


「……花音っ! お前はバカかっ!? 妊娠するぞっ!? 」


俺の言葉に一瞬驚いた顔をした花音は、その顔を真っ赤に染めあげると口を開いた。


「にっ……にににっ、妊娠て何よっ! ……お兄ちゃんの変態っ!! 」


ポカポカと俺を殴りながらそう言って怒り出した花音。


……変態ってなんだよ。

俺はお前を心配して……。


「翔って……変態なんだねっ」


俺を見てニッコリと微笑んでそう告げた響は、花音に飛び散ったジュースをティッシュで拭き始める。


その姿は何だかやたらとご機嫌そうで……今にも鼻歌まで聴こえてきそうだ。


未だに真っ赤な顔をして怒る花音に視線を移すと、俺は先程見た夢を思い出して真っ青になる。


何でそんなにバカなんだよ……花音。

泊まりってどういう事か解ってるのか……?


「……お兄ちゃんのバカっ! エッチ! 変態っ! 」

「本当だねー。翔はエッチで変態だねー」


真っ赤になって怒る花音の頭を優しく撫でながら、響は呆然とする俺を見てニッコリと笑った。


響なんかに簡単に騙されるなよ……。

お前……USOなんか行ったら絶対に食われるぞ。

解ってるのか……?


……正夢になったらどうするんだよっ。

あんなお前の泣き顔、俺は見たくないんだよ……っ!


響の腕の中にいる花音を見つめ、なんでこんなにバカなんだと愕然がくぜんとする。


それでも花音の事が可愛くて心配で放っておけない俺は……。


その後、何時間にも渡ってUSO旅行計画を潰す為に尽力を注いだーー。





ーー完ーー







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