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「じゃあね」
そう言って早月は電車から一人、降りた。
早月と奏の降りる駅は違う駅だった。
「家まで送っていくよ」
奏は言った。
「いいよ。大丈夫。ちゃんと一人で帰れるから」早月は言った。
発車を告げる電車のベルが鳴った。
早月は電車のドアから少しだけ後ろに後退した。
すると、なぜか奏は電車から降りて、早月のいるホームの上に移動した。
「え?」
驚いて早月は言った。
それからすぐにドアは閉まって電車は次の駅に向かって発車をした。
人々が足早に移動する中で、二人はずっと、その場に立ち止まったままだった。
「どうして?」
早月は言った。
するとなにも言わずに、そのまま奏は、ぎゅっと早月の細い体を優しく抱きしめてくれた。
「あ」
早月は呟いた。
それは、そうされたい、とずっと早月が望んでいたことだった。
でも、紳士である奏は、今まで早月に対して、そういう大胆な行為をしてくれることは一度もなかった。
早月は奏に対して、なんの不満もなかったのだけど、あえて言えば、奏のそういう強引なところがないところが、少しだけ不満かな? と思っていた。
駅のホームにいる数人の人が、抱き合っている二人を見て歓声をあげた。
その声を聞いて、早月は急に今の状況が、すごく恥ずかしくなってきた。
「奏。……その、嬉しいけど、やっぱり人前だと恥ずかしいよ」
早月は言った。
「僕は陸とは違うよ」
強い意志のこもった声で、奏が言った。
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