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 小春はじっと椛の顔を見ながら、黙って話を聞いている。

 心臓が、少しだけどきどきしていた。

「私はね、優に頼まれたんだ。いつも日曜日に区内の図書館でよく見かける可愛らしい女子高生がいるんだけど、その子のことがすごく気になっている。でも、どうしても声をかけられない。だから一度、自分と一緒にその子のことを見てもらって、どう思うか、感想を言ってほしいってね。ようはあと一歩の勇気がでないから、背中を押してほしいって頼まれたの」

 小春はなんだか、よく物事を思考することができなかった。

 えっと、……だから、つまり、……どういうこと?

「だからね、つまりあなたたち二人は『今まで偶然、日曜日に毎週のように図書館で顔を合わせていたわけではなくて、二人が二人とも、必然的に図書館で顔を合わせていたってこと』なの。ただ、お互いに声をかけたりしなかっただけでね」と椛は言う。

 その言葉を聞いても、まだ小春の思考ははっきりしない。

「もう。だからね、優は高松さんのことが好きなの。あなたに一目惚れしたの。だからあなたに会うために、優は毎週日曜日に、わざわざ区内図書館まで出かけて勉強していたのよ」

 そこまで椛に言われて、ようやく小春の思考がはっきりとした。

 小春はベンチから立ち上がると、「山里さん。いろいろとありがとうございました。……それから、さっきはごめんなさい」と言って、椛に深く頭を下げた。

「ううん。別にいいよ」椛は言う。

「それよりも、これからどうする? 今頃、図書館の休憩所のところで、きっと優は四ツ谷さんとコーヒーでも飲みながら、あなたがこれから図書館に来てくれるのか、どきどきして待っていると思うんだけど……」

 椛はとても楽しそうな顔で小春の顔を見る。

 その顔を見て、やっぱり、もしかして山里さんは少しは意地悪な性格をしているのかもしれないと小春は思った。

「もちろん、図書館にいきます」小春は言う。

「決まった! じゃあ、早速帰ろう!」そう言って、椛はベンチから立ち上がると、立っている小春の手をしっかりと握った。

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