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 その日の学校帰りに土手の上を歩きながら、真冬は芽衣のことを初めて、早乙女さんではなく、「芽衣」と名前で呼んだ。

 芽衣は、真冬に自分の名前を呼ばれて、最初、なんだかよく意味が飲み込めない、というような表情をしていたのだけど、すぐにとても嬉しそうな顔で「なに?」と真冬に返事をした。

 その日の芽衣は、それからずっと上機嫌だった。


「もう願いが叶っちゃった。すごいね。お願いした甲斐があったよ」

 愛川公園の中を歩いているときに芽衣が言った。

 学校帰りにこうして、この場所を散歩することは、今では二人の日課のようなものになっていた。

「天橋でしたお願いのこと?」真冬は言う。

「そうだよ」と芽衣は答える。

「どんなお願いごとをしたの?」真冬がそう聞くと芽衣は嬉しそうに「真冬が私のことを早乙女さんじゃなくて、芽衣って名前で呼んでくれますようにって、お願いしたの」と真冬に言った。

「……そうなんだ」と真冬は言った。

「そうなんだよ」と芽衣は言った。


「真冬はすごくあったかい人だね」

 芽衣は真冬に抱きついてそう言った。

「これなら、寒い冬を、ちゃんと乗り越えられそう。こうして真冬が私のことをきちんと暖めてくれるから」と芽衣は言った。

「ちゃんと暖めるよ」

 真冬はそういって芽衣の小柄な体をしっかりと抱きしめた。

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