「こうして二人で会ったり、話したりするの、……久しぶりだね」と芽衣は言った。

「うん」真冬は言う。

 芽衣は真冬のほうを向いた。

 芽衣の顔は真剣だった。

 あまり見たことのない、強気な芽衣にしては珍しい、少し不安そうな気持ちを感じさせる、……そんな真剣な表情だった。

「……まだ、真冬って呼んでもいいよね。柊木くんじゃなくて」芽衣は言う。

 本当は真冬は自分のことを名前で呼ばれることがあまり好きではなかった。

 真冬は『真冬』と言う自分の名前があまり好きではなかったからだ。

 冬に生まれたから真冬。

 それは別に構わない。名前をつけてくれた両親にも感謝している。

 でも、その名前を聞くと、なんだか自分がすごく冷たい人間になったような気がして、真冬はその名前があまり好きではなかったのだ。

 だから真冬は名前だけではなくて、冬も、雪も、あんまり好きではなかった。

 それに、それだけの理由ではなくて、学校でおそらく一番目立つ生徒である早乙女芽衣に名前で呼ばれることは、名誉なことではあるけれど、とても、いや、あるいはおそらく、真冬の人生にとって、あまりにも目立ちすぎる行為だった。

 だからできれば真冬は芽衣に、自分のことを名前で呼んで欲しくはなかった。

 でも、芽衣の顔は真剣だった。

 だから、「別にいいよ」と真冬は答える。

 すると芽衣は「ありがとう。真冬」と言って、少しだけ無理をしたような顔で、にっこりと笑った。

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