そのときの、一瞬の芽衣の顔を、真冬は今も忘れることができなかった。

 でも芽衣は、すぐにいつもの明るい芽衣に戻って、芽衣は「なに話しているの?」と言って、真冬たちのところにやってきて、話の輪に加わった。

 そのあとも芽衣は、真冬の「友達じゃない」と言った話を聞こえなかったふりをして、その場は何事もなく通り過ぎたのだけど、それから芽衣の真冬に対する態度は、明らかにぎこちないものになった。


 芽衣は以前ほど、真冬に声をかけてこなくなったし、以前のように真冬に頻繁に会いに来ることもなくなった。

 真冬が朝、少し早くに学校に登校しても、教室の中に早乙女芽衣はいなかった。 

 真冬は芽衣に謝りたかった。

 でも、それをすることができなかった。

 真冬は芽衣の机まで教室の中を移動することが、あるいは自分から芽衣に近づいていくことが、どうしてもできなかったのだ。

 そして、それから一ヶ月もしないうちに、二人の距離は本当に遠くなってしまった。あまりにも遠すぎて、真冬の目には、芽衣の姿は映らなくなった。

 そして一年後に二人は中学二年生になり、別々のクラスに別れてしまった。

 そのときにも、真冬と芽衣の間には、なんの会話も存在しなかった。


 二人が久しぶりに会話をしたのは、それからさらに一年の時間が経過した、中学三年の夏のある日のことだった。

 お昼休みに、急に教室のドアが開いたかと思うと、そこには早乙女芽衣が立っていた。

 みんなびっくりした。

 でも、このころの芽衣はすでに転校してきたクラスの人気者、と言う立場ではなくて、学校でも有名な行動派の美人の生徒会長(つまりみんなのボスだ)と言う立場だったので、芽衣になにかをいう生徒は誰もいなかった。

 真冬はいつものように窓の外を眺めていたのだけど、ばん! と開いた大きなドアの音にびっくりして、そちらに目を向けていた。

 すると、きょろきょろと動いていた芽衣の視線と、そんな真冬の視線がばっちりと重なり合った。

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