5
そのときの、一瞬の芽衣の顔を、真冬は今も忘れることができなかった。
でも芽衣は、すぐにいつもの明るい芽衣に戻って、芽衣は「なに話しているの?」と言って、真冬たちのところにやってきて、話の輪に加わった。
そのあとも芽衣は、真冬の「友達じゃない」と言った話を聞こえなかったふりをして、その場は何事もなく通り過ぎたのだけど、それから芽衣の真冬に対する態度は、明らかにぎこちないものになった。
芽衣は以前ほど、真冬に声をかけてこなくなったし、以前のように真冬に頻繁に会いに来ることもなくなった。
真冬が朝、少し早くに学校に登校しても、教室の中に早乙女芽衣はいなかった。
真冬は芽衣に謝りたかった。
でも、それをすることができなかった。
真冬は芽衣の机まで教室の中を移動することが、あるいは自分から芽衣に近づいていくことが、どうしてもできなかったのだ。
そして、それから一ヶ月もしないうちに、二人の距離は本当に遠くなってしまった。あまりにも遠すぎて、真冬の目には、芽衣の姿は映らなくなった。
そして一年後に二人は中学二年生になり、別々のクラスに別れてしまった。
そのときにも、真冬と芽衣の間には、なんの会話も存在しなかった。
二人が久しぶりに会話をしたのは、それからさらに一年の時間が経過した、中学三年の夏のある日のことだった。
お昼休みに、急に教室のドアが開いたかと思うと、そこには早乙女芽衣が立っていた。
みんなびっくりした。
でも、このころの芽衣はすでに転校してきたクラスの人気者、と言う立場ではなくて、学校でも有名な行動派の美人の生徒会長(つまりみんなのボスだ)と言う立場だったので、芽衣になにかをいう生徒は誰もいなかった。
真冬はいつものように窓の外を眺めていたのだけど、ばん! と開いた大きなドアの音にびっくりして、そちらに目を向けていた。
すると、きょろきょろと動いていた芽衣の視線と、そんな真冬の視線がばっちりと重なり合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます