芽衣は、少し泣いているようだった。

 芽衣は真冬の存在に気がつくと「あ」と言って、慌てて真冬に背をむけるようにして、向こうを向いてしまった。

 真冬は、どうしようかと少し迷ったのだけど、教室の中に移動した。

 体の向きを元に戻して、教室に入ってきた真冬を見て、芽衣は目のところを手のひらでこすりながら、「……真冬に恥ずかしいところ、見られちゃったな」とにっこりと笑いながら、真冬に言った。

 真冬はなにも言わずに、小さく芽衣に笑い返してから、窓際にある自分の席まで移動して、椅子に座った。すると、教室の一番手前の席である自分の席にいた芽衣は席を立って、そこから真冬のいるところまでゆっくりと歩いて移動した。

 芽衣は真冬の隣の机の上に座った。

「私も窓際の席がよかったな」と芽衣は言った。

「真冬の隣か、もしくは近くの席がよかった」

 芽衣は真冬を見ながらそう言った。

 芽衣はとても楽しそうに話をしていたけど、真冬は「うん」とか「そうだね」とか、短い返事をするのが精一杯で、あまり芽衣ときちんとした会話をしなかった。

 でも芽衣は、それで十分満足そうだった。

「真冬は優しいね」

 と芽衣は言って、窓の外の青色を見た。真冬もつられて、窓の外の青色を見た。そのとき見た青色は、本当にすごく綺麗な青色だった。


 それから芽衣がどうしても校舎の中をまた散歩したいというので、真冬は芽衣と一緒に学校の中を朝の散歩に出かけた。

 ほとんど誰もいない学校の中を、二人はわたいのない話をしながら歩いた。

 主に話をしていたのは芽衣だった。

 真冬は芽衣に「さっき、教室でどうして泣いていたの?」と散歩の間、ずっと聞きたかったのだけど、ずっと聞けないままだった。

 芽衣も自分が泣いていたことなど忘れてしまったかのように、ずっと楽しそうに笑っていた。でも、芽衣の目はまだ、確かに少しだけ赤かった。

 三十分くらいの散歩が終わると、二人は教室に戻って、それぞれ自分の席についた。

 それからクラスメートのみんなが登校してきて、ホームルームの時間になると先生がやってきた。そして二人はいつもの離れ離れの関係に戻った。

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