Page99:爆撃開始!
サン=テグジュペリの街はパニックに陥っていた。
山から下りてきたウァレフォルの一味による爆弾攻撃。
強い破壊力を持つ爆撃によって、街は既に酷い被害を受けていた。
「ヒャーハハハ! 派手に爆ぜろォ!」
「鉄でも金でも、なんでも奪えー!」
「女だァ! 女を捕まえろォ!」
ハグレ
警邏の操獣者が交戦するが、魔僕呪によって強化されているハグレ操獣者の前には歯が立たない。
次々と倒され、変身を強制解除に追い込まれてしまう。
それは物でも人でも関係ない。ハグレ操獣者達は嬉々として略奪を楽しんでいた。
街の人々は絶望に包まれる。
抵抗すらできない屈辱。奪われる無力感。
生活を蹂躙されていく様を、ただみている事しかできなかった。
しかし、希望はまだ潰えていない。
騒ぎに気がついたオリーブが、街に現れたのだ。
「ひどい……」
街の惨状を目にして、オリーブは魔装の下で歯を食いしばる。
そんな中、ハグレ操獣者達がオリーブに気がついた。
「あぁ、なんだ? 新手の操獣者かァ?」
「随分ちっせぇ奴だな。ガキは大人しく俺らの金になればいいんだよ!」
「なんで……なんでこんな酷いことをするんですか!」
思わずオリーブは声を荒らげてしまう。
だがハグレ操獣者達はゲラゲラと笑い飛ばすばかりであった。
「なんでかって? そりゃ決まってんだろ」
「盗賊稼業が楽で楽しいからさ」
「盗賊はいいぞォ! 何でも手に入るからなァ!」
街を蹂躙する事に対する罪悪感など欠片も存在しない。
ハグレ操獣者達はただ己の快楽を満たすためだけに、略奪をするのだ。
決して分かり合えない相手。
それを理解させられてしまった瞬間、オリーブの中で何かが弾けた。
「私……あなた達のこと、許せないです」
親友の故郷が酷い事になった。
その実行犯に反省は皆無だった。
戦う理由は、それで十分。
「テメーの許しなんかいらねェんだよ!」
「俺らに勝てると思うなよ!」
ハグレ操獣者達はことごとく、オリーブを舐める。
目の前にいる小さな操獣者に、魔僕呪を服用した自分達が負けるとは毛頭思っていないのだ。
一人のハグレ操獣者が、剣型
「お前も俺らの養分になれやァァァ!」
雄叫びを上げながら襲いかかるハグレ操獣者。
オリーブの頭の中は冷静であった。
ハグレ操獣者が接近するのを待ち、冷静に右の拳を叩き込んだ。
「ていっ」
――怒轟ォォォォォォォォォォォォォォォン!!!――
もはや悲鳴一つ聞くことは無い。
オリーブに殴られたハグレ操獣者は、凄まじい勢いで空高く打ち上げられてしまった。
そのまま後方の民家の屋根に墜落するハグレ操獣者。
残された仲間達は、その光景を呆然と見つめる事しかできなかった。
「私、今すごく怒ってます」
オリーブは仮面の下で、ハグレ操獣者達を睨む。
「手加減はあまりできそうにないんで、先に謝っておきますね」
ようやく我に返ったハグレ操獣者達。
仲間が倒された事で、彼らの間に怒りが湧き出てきた。
「このガキがァァァ!」
「よくも俺らの仲間をォォォ!」
「てーいっ!」
――怒轟ォォォォォォォォォォォォォォォォォォン――
怒り狂ったハグレ操獣者達を、オリーブは次々殴り飛ばしていく。
魔僕呪の影響で正常な判断ができないハグレ操獣者。
闇雲に攻撃を仕掛けては、オリーブの拳の餌食となっていった。
「ヤロウ! ブッ殺してやる!」
背後からハグレ操獣者がオリーブに大鎚型魔武具を振り下ろす。
しかしその気配は、オリーブの契約魔獣であるゴーレムに気づかれてしまった。
『ンゴォォォ!』
ガキン!
大きな音を立てて、無力化される大鎚。
オリーブの魔装には、傷一つついていない。
「な、なんだと!?」
「固有魔法【
動揺して判断が遅れたハグレ操獣者。
振り返ったオリーブの攻撃を避ける事を忘れてしまった。
「てーい!」
――怒轟ォォォォォォォォォン!――
腹部に拳を一発。
ハグレ操獣者は大鎚型魔武具を落として、遥か彼方に吹っ飛ばされてしまった。
周辺のハグレ操獣者を撃退したオリーブは、地面に落ちた大鎚型魔武具を拾い上げる。
「あっ、これイレイザーパウンドですね」
『ンゴンゴ』
「私のはお屋敷に置いて来ちゃったから、ちょうど良かったです」
これだけ派手に暴れて、他の盗賊達が気づかない訳がない。
街の奥からは、数十人のハグレ操獣者が駆けつけてきた。
いずれも怒り狂っている。
「テメェか! 俺らに刃向かったのは!」
「俺らの仲間潰して生きて帰れると思うなよ!」
ハグレ操獣者の集団。全員魔武具で武装している。
オリーブも
「……ちょっと、ピンチかも」
ゴーレムの負傷は全快していない。故にオリーブは現在本調子とは言い難いのだ。
不安がオリーブの中に芽生える。
しかし逃げる事はできない。
ここで逃げれば想像を絶する被害が街を襲う。それだけは絶対に回避しなければならない。
どうするべきか……オリーブがそう考えた次の瞬間。
「キュイィィィ!」
街の空から巨大な影が落ちる。同時に、ミントグリーンの霧が街に振り撒かれた。
『オリーブ、大丈夫?』
「アリスさん!」
空を飛んでいるのは
散布されているのは、敵の動きを止める幻覚魔法だ。
「な!? どうなってやがる!」
「身体が動かねぇ!」
突然身体が動かなくなり、ハグレ操獣者達は動揺する。
その隙にロキは鎧装獣化を解除し、魔装に身を包んだアリスが、オリーブの前に飛び降りた。
「街、大変なことになってる」
「はい。アリスさん、レイ君達は?」
「多分まだ山。アリスは捕まえた盗賊を運ぶのに戻ってきただけ」
「そうだったんですか。でも今は心強いです」
最高のサポーターが来てくれた。それだけでオリーブの中に勇気が芽生えた。
オリーブとアリスは、目の前で硬直しているハグレ操獣者に目をやる。
「アレ、早く片付けよう」
「はい! サポートお願いします!」
二人が武器を構えると同時に、ハグレ操獣者達にかかっていた魔法が切れる。
ハグレ操獣者は次々にオリーブ達へと襲いかかってきた。
「この糞アマがァ!」
「とりゃー!」
重量を上げたイレイザーパウンドで、襲いかかるハグレ操獣者を次々に吹き飛ばしていくオリーブ。
その凄まじいパワーを前に、ハグレ操獣者はなす術もなく餌食になっていった。
「だったら先にこっちのチビから!」
「甘い」
アリスに狙いを定めるハグレ操獣者。
しかし動きは単調。アリスは冷静に幻覚魔法を付与したナイフで切りつけた。
「エンチャント・ナイトメア」
強力な幻覚を植え付けられたハグレ操獣者は、その場で気絶してしまう。
アリスとオリーブ、二人の想像以上の強さに残ったハグレ操獣者達は恐れを抱き始めた。
「な、なんだよコイツら!」
「強すぎるだろ!」
魔僕呪を服用した自分達が手も足も出ない。
ハグレ操獣者達には、その現実が恐ろしかった。
無敵を超える強者。現実がそれを認めさせてくるのだ。
「て、テメェら! 何者なんだ!?」
一人のハグレ操獣者が声を上げる。
オリーブは大鎚を前に突き出して、こう言った。
「自称、ヒーローです!」
「オリーブ、それレイとフレイアの真似?」
「えへへ、一回言ってみたかったんです」
ハグレ操獣者の間に恐れが伝染する。
目の前の強敵が恐ろしい事もあるが、ここで倒されればウァレフォルに始末されてしまう。
ならいっその事、相打ち覚悟で攻撃を仕掛けた方がいいのではないか。
半ば自暴自棄な考えをハグレ操獣者達の中によぎった瞬間、彼らにとって救世主となる声が響いてきた。
「なんだお前ら、随分苦戦してるみてェじゃねーか」
ハグレ操獣者達をかき分けながら歩いて来たのは、白髪の大男。
ウァレフォルである。
その後ろにはマンティコアもいる。
「お頭!」
「お前らは下がってろ。アイツらは俺様が遊んでやる」
「へ、へい!」
ウァレフォルの一言によって、ハグレ操獣者達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
アリスとオリーブは、ウァレフォル対峙する。
「……あなたが、盗賊のボスですか?」
「あぁそうだ。俺様が盗賊王、ウァレフォル様だ」
「あなたのせいで、街が大変なことに」
「そうだな。たまたま俺様の目についたのが運の尽き。まぁ犬に噛まれたとでも思ってくれや」
「ふざけないでください!」
「ふざけたのはテメーらだろ? 俺様の部下を可愛がって、俺様の顔に泥を塗ったんだ」
そう言いながらウァレフォルは一本の黒い筒状の魔武具を取り出す。
オリーブとアリスは、それを見た瞬間仮面の下で驚愕した。
「それって!?」
「ダークドライバー」
「なんだ知ってんのか。じゃあこの後どうなるかも分かるよなァ!?」
ウァレフォルがダークドライバーを掲げると、マンティコアが吸い込まれる。
そして邪悪な炎が点火された。
「トランス・モーフィング!」
呪文を唱えると、ウァレフォルの全身が黒い炎に包まれた。
数秒の後、黒炎を払って、獅子の悪魔と化したウァレフォルがその姿を見せた。
「その姿、あなたゲーティアの悪魔だったんですね」
「あぁそうだ。テメーらはこの姿で遊んでやる」
「オリーブ、気をつけて」
「はい」
大鎚を握る力が強まるオリーブ。
勇気を振り絞ってはいるが、まだゲーティアに対する恐怖が完全に消えた訳ではないのだ。
そんな事は露知らず、ウァレフォルは下卑た笑みを浮かべる。
「さぁてと。まずはどう遊んでやるかな」
品定めするようにオリーブとアリスを見るウァレフォル。
そして遊び方を決めた。
「決めた。まずはこの爪で引き裂いてやる!」
ウァレフォルは跳躍し、獅子の爪を二人に向けてくる。
オリーブとアリスは咄嗟に回避。
獅子の爪は地面を大きく引き裂いた。
「ほう。反射神経はあるみたいだな。そうでなきゃ遊びごたえがない」
「オリーブ、大丈夫?」
「はい……なんとか」
オリーブは引き裂かれた地面を見てしまう。
あと一瞬遅れていたらどうなっていたか、オリーブの中で恐怖が小さく生まれた。
「そうだなァ、じゃあ次はこれなんてどうだ!」
獅子の爪に魔力が纏わりつく。
ウァレフォルは爪を大きく振り、魔力の斬撃を繰り出した。
アリスは咄嗟の回避に成功。しかしオリーブが一瞬遅れてしまった。
「オリーブ!」
「っ!」
オリーブは無意識に大鎚を前に出して防御する。
頑丈な大鎚とオリーブのパワーを持ってして、斬撃の軌道を変える事には成功した。
逸れた斬撃と、外れた斬撃が近くの建築物に激突する。
大きな激突音と建築物の崩落音が響いてきた。
「うぅ……」
なんとか防御に成功したオリーブ。
しかし大鎚は完全に破壊されてしまった。
減らしきれなかった衝撃がオリーブの身体に走る。
オリーブはその場にへたり込んでしまった。
当然、ウァレフォルはその隙を見逃さない。
「まずは一匹。狩らせてもらうぜェ!」
ウァレフォルの獅子の爪が妖しく光る。
オリーブは腰が抜けて、すぐに動くことができなかった。
「あ……あぁ」
「オリーブ!」
アリスが声を上げる。
この位置からではオリーブを助ける事はできない。
絶対絶命。それでもとアリスが駆け出そうとした次の瞬間であった。
「終わりだァ!」
「【武闘王涙】脚力強化!」
――斬ァァァァァァン!――
獅子の爪が斬り裂く。
しかしその対象は地面と空気。
オリーブは引き裂けていなかった。
「大丈夫か、オリーブ」
もうダメだと思っていたオリーブは、恐る恐る仮面の下で目を開ける。
誰かに抱きかかえられている。
オリーブの目の前には、銀色の魔装に身を包んだ操獣者がいた。
「レイ君!」
「間に合ってよかった」
いつかの時のように、レイが助けに来てくれた。
オリーブは胸が高鳴るのを感じていた。
「レイー! そっちは大丈夫!?」
「俺もオリーブも無事だ」
「よかったー」
「フレイアちゃん!」
続けて現れたのは赤い魔装に身を包んだフレイア。
オリーブはその姿を見て、強い安心感を覚えた。
レイはひとまずオリーブをおろす。
「テメーら、爆発で死んだんじゃなかったのか」
殺したと思った相手が生きていた。ウァレフォルは苛ついた声で問いただしてくる。
「ベーっだ! あんなんで死ぬわけないでしょ!」
「まぁ結構ギリギリだったけどな。鎧装獣化して爆破から生き残ったんだよ」
「レイもフレイアも、危なかったの?」
「「めっちゃ危なかった」」
レイフレイアは声をハモらせる。
だが生き残ったので結果オーライだ。
四人の操獣者を前にして、ウァレフォルは不適な笑みを浮かべていく。
「ククク……そうかァ、テメーら生き残ってたのかァ」
「当たり前だろ。テメーを倒さずに死ねるかってんだ」
「おもしれー、おもしれーゾ!」
歓喜の声を上げるウァレフォル。
「玩具は頑丈であれば良い。テメーらは最高の玩具だ!」
「うるさい! 人を玩具にしないでよ!」
「そういうところが悪魔って呼ばれる原因だぞ」
「悪魔、そうだな悪魔だな」
ウァレフォルの目が妖しく光り輝く。
明らかに強い殺意が宿っていた。
レイとフレイアは反射的に魔武具を構える。
「テメーらは絶対に、俺様が殺す! これは決定事項だァ!」
「じゃあ全力で抵抗させてもらおうか、ライオン野郎!」
レイはコンパスブラスターの切先を向けて、そう叫んだ。
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