将樹の告白(14)


「待って、じゃあ、将樹は雪也と知ってて雪也を見殺しにしたの?」


「厳密に言えば……雪也だったから見殺しにした」


「なんで!」


「なんでか分からない?」


 将樹の瞳の奥が揺れる。


「雪也に……嫉妬してたから?」


 将樹は何も答えずにただじっと來夢を見つめていた。


 そんな理由で、と喉元まで出かけて來夢はそれを飲み込んだ。


 ホームに佇む雪也の後ろに、人混みに紛れて來夢を見つめる将樹の姿があった。


 同じ想いで來夢を見つめていた2人の男のうち1人は來夢の胸の中に永遠に生き続け、もう1人はその存在すら気づかれることがなかった。


「あの時いつ雪也だって気づいた?雪也は将樹だって気づいてた?気づいて将樹を止めようとしたの?」


「雪也はなんにも気づいてなかったよ。俺が雪也だと気づいたのは、雪也がビルから落ちた後だよ」 


 駆け寄って、本当は助けるつもりだったと将樹は言った。




 将樹は男がまだ生きているのが分かると急いでスマホを取り出し救急車を呼ぼうとした。


 その時だった朦朧とした意識で男が何かを呟いた。


『え?なんだ?』


 将樹は男の口元に耳を近づけた。


 男の喉が震える。


 微かにだが、それは聞こえた。


 來夢


 男はそう言った。


 将樹は男の顔を見た。


 まともに男の顔を見たのはそれが初めてだった。


 早川 雪也


 将樹にはすぐに分かった。





「その瞬間、俺の中に新たな感情が生まれた」


 來夢は俯く将樹をただぼんやりと見つめた。


 最後に雪也が自分の名前を呼んだことを知っても、もう何も感じなかった。


 來夢はおもむろに立ち上がると窓際に立った。


 カーテンの隙間から外を覗く。


 薄暗くなった通りに人影が見えた。


 高校生の姿の雪也が來夢の立つ窓を見上げていた。


 あの時と同じ目をして。


 カタン、カタン。


 電車の規則正しい音がどこからか聞こえた。


「だめよ」


 來夢は掠れた声で言った。

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