沖縄のユタ(8)

 突然訪れた來夢に叔母は驚きながらもとても喜んでくれた。


「まぁ、來夢ちゃんまた一段と綺麗になったこと、さぁお入りなさいお入りなさい」


 叔母は6年前に叔父に先立たれ、子どもにも恵まれなかったため、今はひとり暮らしだった。


 來夢の母親より3つ年上で母が死んでからはなにかと母親代わりになってくれている。


 そしてこの叔母は來夢とは逆に子どもの頃に手の平を通して人の心が読める能力を持っていた人物だった。


 電話ではときどき話していたが久しぶりに会う叔母は、やはりどことなく來夢の母に似ていた。


 叔母は來夢にあれは食べるか、これは食べるかと訊いてきたが、どれも首を横に振り、食欲がないと応えると叔母はスイカを切って持って来た。


「お父さんは元気にしてる?」


「うん、元気だよ」


 來夢の父は数年前に再婚した。


 母が死んでからずっと男手一つで育ててくれた父の幸せを來夢は心から祝福した。


 ずいぶんと若い奥さんで去年2人の間に女の子が生まれた。


 父はいつも來夢に遊びに来いと誘ってくれるが、何かと理由をつけて断った。


 父の2度目の新しい人生に自分はしゃしゃり出ないほうがいいと思った。

 

 來夢は少し迷ったが手袋を外すとスイカの三角のてっぺんを小さくかじった。


 スイカの甘みが口いっぱいに広がる。そういえば朝から何も食べていなかった。


 來夢の脇に置かれた手袋を叔母は手に取った。


「未だ能力は健在?」


 來夢は無言で頷く。


「不思議よね、わたしと來夢ちゃんだけ。でも來夢ちゃんもいつかわたしのように突然その力がなくなるかもね」


 そう言うと叔母は語り出した。


 來夢の母と2人姉妹だった叔母は、後から生まれた來夢の母に自分の母親を取られたと尋常じゃない嫉妬を感じたという。


 よくありそうな話だが、なぜか幼い頃から自分が愛されることに凄まじい執着があったという。


 叔母は昔から過去生とか生まれ変わりを信じている人で、もしかしたら自分の前世で愛に飢えて死んだことがあり、その魂の記憶が残っているのかも知れないと言った。


 しつこいくらい幼い叔母は母親に触れたらしい。


 何度も何度も何度も母の愛を手の平から感じ、それは温かくて光に包まれるように心地よく、そのまま寝てしまったこともよくあったという。

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