沖縄のユタ(6)


『ひとりで逝ってしまって、ごめん。一緒に死のうって約束したのに』


 來夢の体が脈打った。


 部屋の中を見回す。


「雪也?」


 自分でも馬鹿らしいと思った。


 でもそうせずにはいられなかった。


「雪也!」


 その時來夢の電話が鳴った。


  佐藤 実


  液晶画面に表示された文字。


 電話を取るなり佐藤実は一方的に話し出した。


『もしもし?俺思い出したよ、あの日ドラックストアーにひとり男がいたさ。それあんたと一緒にいた男だよ、すっげぇ酔っ払って赤い顔してたけど、間違いないあの男があの晩あそこにいたさ』


 セックスの途中人が変わったようになる将樹。


 その姿が來夢の脳裏で炸裂した。


 嘘。


 そんなことあるはずがない、嘘、嘘、嘘、嘘。


 頭が真っ白になった。


 何も考えられなくなった。


來夢はどうやって電話を切ったのか、どうやってキミエの家を出てきたのか覚えていない。


 気づくと知らない那覇市内をうろついていた。


 喉の渇きで我に返った。


 自動販売機で水を買う。


 ゴトンと鈍い音を立ててボトルが落ちてくる。


 喉を鳴らして水を飲んだ。


 思考が少しずつ戻ってくる。


 キミエはきっと本物のユタだ。


 あれは雪也だった。


「雪也……」


 來夢は両手で顔を覆いすすり泣いた。


 あのとき一瞬でも雪也は來夢のそばにいたのだ。


 そう思うと胸が締め付けられた。


 雪也と佐藤実の証言。


 ビラ配りをしながら大勢の男たちの手に触れて回った自分。


 いつもそばにいた目の前の将樹に触れることをせずに。


 初めて将樹に雪也のことを話したのは、あの雨の日だった。


 久しぶりに会う将樹に別れ話をするためにカフェに呼び出した。


 そして将樹は自ら來夢の犯人探しを手伝いたいと名乗り出た。


 今考えれば不自然といえば不自然ではないか?


 あの時に将樹は初めて來夢が雪也の恋人だったと知ったのか?


 來夢の話を聞く将樹に普段と変わるところはなに1つなかった。


 ぞわりと全身に鳥肌が立つ。


 まさか最初から知っていてそれで來夢に近づいたのか?


 そう思うと出会い方も出来すぎているような気がしてくる。

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