第3話 解放
「いえ……。裏門を通るのはやめておきましょう」
「なんとっ! 我輩に暴れる機会を奪うつもりなのでもうすか!?
「だって、ヌレバくんは先生たちが裏門を通りぬけたあとに、ここは我輩に任せて先にいってほしいのでもうす! ってのをやりたいんでしょ?」
ハジュンの指摘にヌレバがうぐっ! と喉を詰まらせる。あまりにも的確に図星を突かれた格好となり、ヌレバは何も言い返すことが出来なくなってしまうのである。ハジュンはそんなヌレバを見て、はあやれやれと嘆息してしまうのである。
「あのですね? 先生たちはこれから追われる身となるのです。そして、先生たちの最大戦力となるのは、ヌレバくん、あなたなのですよ? あなたを裏門を通過するためだけに失うのは手痛いんですよ」
「じゃあ、どうするんだィ? 正門はもちろん駄目で、裏門はヌレバ殿がアホなことをしでかすのは自明の理だしィ。この宮廷のどこかにあると言われる抜け道を通るとか言い出すのかィ?」
次にハジュンに質問したのはセイ=ゲンドーであった。セイ=ゲンドーがヌレバのことをアホ呼ばわりしたので、ヌレバはこ、この野郎! と憤慨するのであるが、セイ=ゲンドーはひょうひょうと聞き流すのであった。ヌレバは怒りの矛先をかわされてしまう結果となる。
「はい、セイくんの言う通りです。宮廷のどこかにあると噂されている抜け道を通って、この宮廷から脱出しましょう」
「そんな都合の良いモノが本当に存在するのかニャン? ミサちゃん、ハジュンさまの命令で今まで散々に宮廷で諜報活動を繰り返してきた経歴持ちだけど、噂しか耳に入ってこなかったニャン?」
ミサ=ミケーン。彼女の正体は『忍者』であった。彼女は普段はド・レイ家の屋敷で筆頭侍女の仕事に従事しているが、彼女がハジュンと共に宮廷に上った時は、彼女は本来の仕事に戻り、宮廷内のあらゆる情報を集めてきたのである。
そんな彼女ですら、宮廷にあると噂される抜け道を実際にその眼で確認したことは無い。だからこそ、彼女は主人であるハジュンの提案に対して懐疑的であったのだ。そんな彼女の疑念を払うべく、ハジュンは口を開く。
「宮廷には東西南北に1棟ずつ、塔がありますよね。東塔は皆さんがご存じのように
「あっ、確かにそう言われればそうでしたニャン。代々の
忍者であるミサ=ミケーンが宮廷内で忍び込めなかった唯一の場所。そこは多重に張られた結界により通路を塞がれていた。それゆえ、
「あの結界をどうにかする方法を実は先生たちはすでに手に入れています。それは道すがら説明しましょう」
とハジュンがそこまで皆に言った後、いきなり、宮廷全体を揺るがす鳴動が起きる。最初はゴゴゴと低い唸り声のような音が響いていたのだが、次の瞬間にはこの宮廷が建っている岩盤自体が揺れ動いているのではと思えるほどの縦揺れが起きたのである。
「ちゅっちゅっちゅ!? こ、この気配は! まさか、メアリー帝は始祖神:S.N.O.Jを復活させるつもりなのでッチュウ!?」
(始祖神? S.N.O.J? えっ? コッシローが何を言ってるのかわからないわよ?)
宮廷全体が縦揺れを起こす中、あまりにもとち狂ったことをコッシローが口走るので、倒れないように必死にクロードにしがみついていたロージーであったが、頭の中が妙に冷静になってしまい、コッシローを胡散臭そうに見ることになる。
突然、大空から雹が降ってきても、槍が降ってきても、ちゅっちゅっちゅと不敵に笑うことを止めないようなコッシローが明らかに狼狽しているのである。コッシローがガンガンに縦方向に揺れるベッドの上で、2本の後ろ足で立ち上がり、円を描くように走り回っているのである。
「ねえ、コッシロー、おちつい」
そこまでロージーが口にした次の瞬間であった。宮廷のある一角から異常すぎる桁の魔力があふれ出し、その魔力の余波が押し寄せる津波のようになり、宮廷を一掃でもしたかのような感覚にロージーは襲われることになる。
その魔力に当てられることにより、ロージーたちだけでなく、宮廷内に居るたった一人を除いた全てのニンゲン、動物たちは数分ほど気を失うことになる。
宮廷内で唯一、桁違いの魔力の波を受けて、気絶しなかったニンゲン。それは、メアリー帝であった。彼女は玉座の間でひとり高笑いをしていたのである。
「アーハハァ! 母上、いえ、代々の『教皇』が所持していた
玉座の間の床に置かれていた分厚い
それでは足りぬと見たメアリー帝が左手に持つ
その
破壊された
金色の髪、金色の双眸、銀色に発光した肢体。そしてヒトとは違い、かの者は4本の腕を持っていた。彼? はその4本の両腕を胸の前で組み、彼女に告げる。
「
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