第9話 守護騎士
眼の前に全てを巻き込み破砕する竜巻が具現化したかのようにクロードは感じた。回廊の石畳は突然そこに出現した竜巻に巻き上げられていく。さらにはそれらはその竜巻の中心部へと吸い込まれていき、次々と破砕していく。そして破砕された石畳は細かい破片となり、四方八方へと竜巻の外へと吐き出され、それらが回廊をさらに破壊していくのであった。
(このままじゃまずい! まずは距離を開けないと!)
クロードは回廊にある中庭に続く扉を開けて、狭い回廊から脱出を図る。だが、竜巻と化したモル=アキスは回廊の石壁すらを破壊して、中庭に侵入してくるのであった。そして、中庭の芝生と土をその身に吸い込み、天上へとかちあげていく。
クロードは後退を続けた。あの竜巻に巻き込まれれば、鎧を着こんでいるはずの自分であろうが、なすすべなく切り刻まれ、ただの肉片へと生まれ変わるイメージが脳内を支配する。
実際にクロードが先ほどまで手にしていた
クロードは回廊に囲まれた中庭の中を逆時計回りに回避していく。中庭の中心には石で出来た噴水があり、それを盾にしようとした。
しかしだ。モル=アキスが生み出した竜巻は、その噴水を回避することはせず、まっすぐにクロードへと進んでいく。竜巻は噴水の縁をガリガリと削り、破壊し、そこからあふれ出る水を大量に吸い込み、天上へと昇らせていく。クロードもこればかりは面食らい、逃げ場所を失い、中庭の角へと追いやられることになる。
竜巻の中心にいたモル=アキスがキーヒヒッ! と笑う。逃げ惑うネズミをついに捕らえた。あとは身に纏う暴風で食い散らかすだけだ。彼はそう思った。
しかし、まさにクロードの身体があらゆるモノを飲み込み汚い色に染まった竜巻に飲み込まれようとした瞬間であった。
追い込まれたクロードの腰の右側に佩いていた鞘から紅色の発光が起きたのであった。その光の元は鞘に収まっていた
(
クロードは眼の前に迫る竜巻よりも、腰に佩いた
クロードが鞘から
さらには、彼の耳にはどこからともなく威厳を持った声が響き渡る。
――汝、想い人のために、
(なんだ? どこからか声が聞こえる……)
――汝、想い人のために仇を討つ決心をしたか?
(仇? それはモル=アキスのことを言っているのか?)
どこからともなく、次々とクロードに問いかける声がクロードの耳に届く。しかし、クロードはどの質問もまともに応えられない。
――汝、想い人と共に苦難の道を選ぶのか?
(俺はロージーとどこへ向かいたいんだ……)
――汝は
(違うっ! 俺は
――ほう? それは面白い応えなのである……。なるほど、
(ああ……。俺はロージーのための騎士になる。ロージーがなりたいモノになるために、ロージーを護っていく。ただそれだけの騎士になりたい!)
――委細、承知したのである。では、
クロードはいつの間にか閉じていたまぶたを開く。その時、彼の狐色の双眸は明るさを増し、光り輝く
「
クロードの身から
「使用許可が下りた……! 俺とロージーのために道を開けろおおおっ! 『
クロードは両手で握る
その
「俺はロージーのためにこの剣を振るう! 俺はロージーのために道を開く! 俺はロージーのためだけの『騎士』になるっ!
竜巻の中心に居たモル=アキスの銀色の双眸には信じられない光景が映っていた。自分が魔力の全てを込めて作りあげた破壊のためだけの緑色の暴風に対して、今まで真っ向から対峙してきた者など存在しなかった。
なのに、まさに追い込んだ相手に自分の魔力と拮抗するだけの力を発揮されているのだ。いや、拮抗という言葉は間違っている。緑色の魔力の渦の中に少しずつだが、鋭い
「ふざけるなっ! ふざけるなっ! ふざけるなあああっ!」
モル=アキスは憔悴しきっていた。彼は自分が巻き起こした竜巻に絶対なる自信を持っていたのだ。もし、ポメラニア帝国随一の武人と呼ばれるヌレバ=スオーであろうが、大将軍:ドーベル=マンベル相手だろうが、この
しかし、その自信は段々と竜巻の中心部に
「ふっざけるなあああっ!! あああっ!?」
ゆっくりとゆっくりとであるが、竜巻に突き刺さった
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