第6話 不敵な笑み
ロージーの反論にコッシローは鼻で笑うかのように、ふんっと漏らす。そんなわけがあろうはずがないとコッシローはさも言いたげであった。
「ちゅっちゅっちゅ。ロージーちゃんは女に生まれてきたのが惜しいくらいなのでッチュウ。お父上から『もしもロージーが男に生まれてくれれば……』と嘆かれたことはなかったでっちゅうか?」
「そんなことは無いわよ? パパとママはわたしを蝶よ華よと可愛がってくれたわ……。決して、わたしにそんなことを言ったことなんてなかったわよ?」
コッシローとロージーは不敵な笑みを浮かべあいながら、言葉の応酬を繰り返す。その輪からクロードだけがはじき出されている形となっていた。
「それにパパはわたしなんかより、よっぽどクロのことを可愛がっていたわ。まるで自分の息子かのように。わたし、ちょっと、クロに焼きもちを焼いてた時期があったんだもの」
「へっ!? そうなの!?」
ロージーの突然の告白にクロードは眼を白黒とさせてしまう。そんなクロードの態度に、ロージーは、はあああとひとつ嘆息してしまう。
「わたしとクロが『婚約』を交わしても、パパが真正面から反対をしなかったのは、クロがわたしのパパに大層、気にいられてたからよ? あの時、形式上といえども、わたしにはコーゾ家の次男坊という『
「ご、ごめん。ロージー。俺、カルドリアさまがそこまで考えてくれていたなんて、思ってもみなかった……」
(そうか……。俺って、カルドリアさまに期待されていたんだ……。だからこそ、カルドリアさまは俺とロージーとの『婚約』を認めてくれたんだ。俺、てっきり、『婚約』を破棄するのは難しいから、致し方ない部分が大半を占めているとばかり思っていた……)
クロードが渋い顔になりながら、視線を白いテーブルへと移し、うなだれてしまうのであった。そんなクロードをコッシローがさも可笑しそうに、ちゅっちゅっちゅと笑う。
「本当に感情が表に出やすい男でっちゅうね、クロードは。ハジュンの小僧は、何故にこの男まで、浮島に連れてきてほしいとボクに頼んだのでッチュウ? そこが最大の謎なのでッチュウ。ハジュンの企みから考えるに、クロードのこの性格は足かせになりえるのでッチュウのに……」
ハジュン=ド・レイは
「まあ、ハジュンの小僧が何を考えているのかは、ボクにもわからないでッチュウ。ロージーちゃんとクロードの2人を浮島にあるハジュンの小僧の屋敷に連れてきてほしいと頼まれているのでッチュウ。ロージーちゃん、ボクと一緒に浮島へ行こうなのでッチュウ」
「だから、何度も言っているけど、わたしは復讐を成し遂げる気は、これっぽっちも無いわよ? 悪いけど、そのお誘いは断らせてもらうわ?」
ロージーはあくまでも復讐を拒否する構えであった。コッシローに言いように扱われるのはしゃくに触るとでも言いたげでもあったのだ。
「ほう……。では、言い方を変えるでッチュウ。ハジュンの小僧は、打倒宰相派を掲げているだけではなく、オベール家の当主:カルドリア=オベールの冷凍睡眠刑を中止させるつもりなのでッチュウ。そのためにはオベール家に連なる血筋の人物が必要なのでッチュウ」
「え……? それってどういう意味なの?」
「言葉そのままの通りなのでッチュウ。本当ならカルドリア=オベールの奥方であるオルタンシア=オベールを使えれば良いモノの、彼女は今、土の国:モンドラで養生している身なのでッチュウ」
ロージーの母親であるオルタンシア=オベールは、最初、浮島にある准男爵:セイ=ゲンドーの屋敷で養生していた。セイ=ゲンドーはハジュン=ド・レイの忠実なる部下であった。ロージーは彼を信頼して、母親を任せていたのだ。しかし、去年の秋の終わりには、浮島と言えども、火の国:イズモの厳しい冬を過ごすのは辛かろうということで、オルタンシアの生まれ故郷である土の国:モンドラに移送することになったのだ。
オルタンシア=オベールは現在、土の国:モンドラのとある部族で世話をしてもらっている。その部族の族長の娘なのだ、オルタンシアは。そして、チワ=ワコールはオルタンシアがその部族に属しているころからの彼女の従者である。
オルタンシアがカルドリア=オベールと結婚し、水の国:アクエリーズへと向かった時も、火の国:イズモへ流刑になってもオルタンシアとチワ=ワコールは共に居たのであった。そして、土の国:モンドラへ帰ることになったが、チワ=ワコールは献身的に彼女に仕えることとなる。
チワ=ワコールは1カ月に1度はロージーに手紙を送っていた。チワ=ワコールが送ってくる手紙には、少しずつではあるが、オルタンシアさまの体調が良くなっている。安心してほしいと綴られていた。ロージーたちは、チワ=ワコールからの手紙により、心から安堵することになる。
しかしだ。そのロージーたちの眼の前に居る白い体毛のネズミは、もしロージーの母親が体調が万全に回復していたならば、ロージーに成り代わり、オルタンシアを利用していた可能性を想像させるには十分な言い方をするのである。
「汚いわね……。ここでわたしのママの名前を出してくるかしら……」
ロージーの不快をにじませた非難の声を、ちゅっちゅっちゅと笑い飛ばすコッシローである。
「ハジュンの小僧は、近々、宮中で起きるであろう大事件の情報を掴んでいるのでッチュウ。そこで、ハジュンの小僧はその大事件を逆手にとって、宰相派を宮中から一掃しようとしているわけでッチュウ。ここまで言えば、察しの良いロージーちゃんなら、理解してもらえるでッチュウよね?」
ロージーは、ぐっ! と唸る。無意識に顎に力が入り、さらには右手をギュッと握りしめる。この力いっぱいに握りしめた右こぶしを眼の前で挑発を繰り返す生意気なネズミの頭頂に振り下ろせれば、どれほど楽なものか……。
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