第25話 電力供給への道
この学校の端によく理屈は分からないが、魔力炉と呼ばれる魔法工学が生み出した謎のバカデカい物体が四つある。
別にこれといって興味はないのだが、この物体が電気という謎のパワーを生みだし、それが学校を支えている力の一つである事は知っていた。
魔法工学に舵取りしたアリーナが目を付けたのが、この魔力炉四基だった。
「うーん、計算上は効率が飛躍的に上がるんだけど……」
「その検算を私にさせるところが、さすがアリーナだぜ!!」
私の個人研究室で、アリーナが計算書の山を抱えて唸っていた。
その計算の検算をして、ことごとく間違いを指摘しているのが私だった。
「検算してて思ったけど、これ新造した方が早くないか。このポンコツじゃ、どんなに頑張っても大した事ないぜ!!」
「それは思うけど、この学校の心臓部だぜ。新造して交換なんて、簡単に許してくれるはずがないだろ!!」
私は笑みを浮かべた。
「だったら、勝手に作っちまえばいいんだよ。気に入ったら交換してもらえばいいだろ!!」
「……たまに、大胆なこというよね。勝手に作っちまえって、どんだけデカイ機械か、今のボロいやつみても分かるだろ。そのまま、プロジェクト何とかになっちまうっての……まあ、アイツを五発もぶん殴れば許可は出るだろうけどさ」
「……アイツって誰よ?」
アリーナはため息を吐いた。
「私が一番嫌いなことやらなきゃいけないんだよ。緻密な計算とプランだ……」
「……確かに苦手だな」
アリーナは私を抱えた。
「とりあえず、これを洗わないと始まらないな。それから考えよう」
「……なんで、いちいち洗うの?」
アリーナは私を風呂に引き込んだ。
「……おい、なんだこの騒ぎはよ?」
「うん、うっかり国家プロジェクトになっちまってよ。しかも、総監督は私だぜ。これ、終わったな!!」
安全第一と書かれた黄色いメットとかいう、なんか変な帽子を被ったアリーナが私を抱えて笑った。
「国家プロジェクトって、なにをどうしたらそうなっちゃったのよ!!」
「うん、資金が足りなくて家に出せってサーシャをネタに脅迫状を送ったら、じゃあ国でやってやるからサーシャは大事にしろってさ!!」
「……おい、私をどうしようとしたんだよ!?」
アリーナが笑みを浮かべた。
「うん、毛を全部毟って素揚げにして食ってやるって送ったら、慌ててこうなった。本当にやると思ったらしいぞ。バカじゃねぇの!!」
「……おい、やるなよ。頼むから。油断すると、いつの間にか素揚げになりそうだぜ!!」
アリーナが私を強く抱きしめた。
「お前までいうか。やるわけないだろ!!」
「……まあ、だといいけど」
アリーナは笑った。
「それより気がつかねぇのかよ、サーシャをネタにしたらこれだぜ。国から愛される猫だぞ。すげぇな!!」
「……気がつかないフリをしていただけだ。私が素揚げになろうが関係ないだろうに」
アリーナはそれに強く抱きしめて答えるだけだった。
魔力炉四基の交換作業は簡単ではなかったが、一基ずつ丁寧に行われていた。
アリーナの指揮に見せかけて、抱えられている私もわりと意見を挟みながら、まずは一基目が終わった。
「よし、起動試験だな」
アリーナが何か弄ると、甲高い音を立ててなにやら動き始めた感じだった。
「問題ねぇ。出力上げてくぞ!!」
甲高い音が大きくなり、強烈な魔力を放ち始めた。
「おい、放射魔力量がデカすぎるぞ。素人でも分かるぜ、このまま行くとコイツがぶっ壊れる!!」
アリーナは手元の紙をパラパラ捲った。
「……一時的なものだと思うよ。サーシャの計算なら、まだ許容範囲だね」
「あんまり当てにするなよ。素人なんだからよ!!」
アリーナは笑みを浮かべた。
「大丈夫、間違っていても辺り一面吹っ飛ぶだけだから!!」
「大丈夫じゃねぇよ!!」
しばらくすると異常な魔力放射は収まり、通常運転状態になった。
「ほら、大丈夫だった。あと三つもあるぜ!!」
「……ヒヤヒヤもんだぜ!!」
私はため息を吐いた。
「……終わったな」
「……ったく、いきなり壮大なプロジェクトにしやがって!!」
結局、アリーナが設計した魔力炉は問題なく稼働した。
「やっと、実績らしい実績を残したぜ!!」
「おう、そりゃいいことだ!!」
ちなみに、古い方もまだ十分使えるため、全部で魔力炉が八基になり、電力とかいう謎のパワーの安定供給に貢献しているらしい。
「やっぱ、サーシャは万能だぜ。どっか置いときゃ仕事するもんな!!」
「……招き猫じゃねぇぞ」
アリーナが私を抱えた。
「いっそ、国王でもやる。置いときゃ仕事するから!!」
「馬鹿野郎、国が滅んじまうぞ!!」
アリーナは笑みを浮かべ、そのまま風呂に引きずり込んだ。
「仕事上がりは洗わないと!!」
「いつでも洗うだろうが!!」
魔法工学の優れた魔法使いを技師と呼ぶらしいが、これがアリーナが踏み出した技師への一歩……かもしれなかった。
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