第20話 国からの仕事もある

 この学校の学生は、当然学生ではあるのだが、同時に国が擁する一人前の魔法使いとしても扱われる事がある。

 もちろん、それなりの実績がある事が条件だが、国としては安くこき使える、学生としては将来の就職に当たっての覚えが明るくなるという、それぞれにメリットがあった。

「おう、招集だぞ!!」

 個人研究室に、アリーナがやってきた。

「招集って?」

「国王令じゃ、邪魔くさい魔物の巣を蹴散らしてこいって!!」

 アリーナがやたら立派な紙を見せた。

「回復士と結界士として、正式に行けと命令が出てる。いかないと反逆罪だぞ!!」

「うわ、横暴な野郎だな。魔物の巣って、すぐそこにある草原じゃん。魔物がいっぱい住んでるだけで、確かに邪魔くさいけど、わざわざ蹴散らしにいく必要ある?」

 アリーナが頷いた。

「それが、原因が分からないけど、数が爆発的に増えちゃったみたいでさ。ほっとくと邪魔くさいじゃ済まないからって事らしい。魔法工学科には全員招集が掛かってる。研究成果をブチ込んだ試作Ⅳ号戦車の出番だぜ!!」

「……兵器を作るのやめようよ」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「手違いで命令書が遅れてさ、今から出撃だぞ!!」

 アリーナが私を抱えた。

「また、急だねぇ。らしいっていえば、らしいけど……」

 アリーナに抱えられた私は、校庭へと向かった。


「またこれかい!!」

 そこには、いつぞやの鉄の箱兵器を思わせるものが、ずらっと並んでいた。

「あれとはレベルが違うぜ。みんな攻撃魔法が下手だから、代わりにこれってわけ。ストックも含めて二十両、全員参加だぜ!!」

「気合いは入ってるな……」

 アリーナはその内一両に乗り込んだ。

「よし、問題ねぇ。いくぜ!!」

 爆音と共に車体が揺れた。

「エンジン始動。やっぱV12はいいぜ!!」

「ひたすらうるせぇ!!」

 しばらくすると、隊列を組んで一団が動き始めた。

「これだよこれ。向こうに着いたら、二両一組で暴れ回るぜ!!」

「……程々にしておけよ」

 一団は、程なく魔物の巣と呼ばれる台地に到着した、

「おう、この段階でウヨウヨいやがるぜ。作戦変更だ、まずは一斉砲撃で叩く。高出力型七十五ミリ長砲身を食らえ!!」

「……楽しそうだね」

 二十両から一斉に黄緑色の何かが発射され、台地のそこら中で爆発が起きた。

「まだまだ、ガンガン撃て!!」

「……まあ、これが楽しいのは分かるぜ!!」

 しばらくひたすら撃ったあと、隊列がばらけてこっちは一両を率いて台地を走り回り、とにかく撃ちまくった。

「おらおら!!」

「……下手な攻撃魔法より効くぜ」

 強烈な魔力砲とやらの前に、運悪く出現してしまった魔物は粉々に粉砕されていった。

 時たま反撃してくる猛者もいたが、すべからく装甲が弾き、やはり粉々にされた。

 しばらくそんな調子で暴れていると、一撃では倒れない頑丈なヤツが出現しはじめた。

「おっ、気合い入ったのが出てきたぜ!!」

「……大体分かるけど、この出力の魔力塊を食らって平気って、まともじゃないぞ」

 アリーナの指が何を弾いた。

「やっとフルパワー出せるぜ。自主規制ってやつだ!!」

 凄まじい機動力が発揮され、魔物を翻弄しまくった挙げ句、仕上げはお供との十字砲火で仕留めた。

「……なんて恐ろしい兵器だ。喧嘩はしたくないぜ」

 しばらくやってると、本気でまともじゃないのが出た。

 こっちの攻撃は命中しているが効かず、反撃の火球をモロに食らって車体が派手に揺れた。

「おう、気合い満々の野郎じゃねぇか。カース・ドラゴンだ。簡単じゃねぇぞ!!」

 アリーナは笑みを浮かべた。

「……喜んでやがるな」

 機動力に任せて敵の攻撃を避けまくっていたが、有効打を与えられない状況が続いた。

「やっぱ、ただの魔力塊じゃ無理か。サーシャの必殺技あったろ。回復魔法で攻撃するヤツ!!」

「……あれね。外法だぞ?」

 私はため息を吐いた。

「まともな方法で倒せる相手じゃねぇよ。そのガラス玉みたいなところに向かって使ってくれればいいぞ。撃てば放たれる!!」

「へいへい、これ作ったけど嫌いなんだよな……」

 私は言われた通りに、呪文を唱えた。

「特殊弾装填、いくぜ!!」

 ガンガン撃ち込まれる火球を避けながら、アリーナは一撃を叩き込んだ。

 瞬間、あれほど頑丈だった魔物の体が崩壊しはじめた。

「……何度みても嫌だぜ。回復魔法の効果を逆転させたらなんて、よく考えたもんだ」

 そう、私が使ったものは、あくまでも回復魔法だ。

 その効果が逆転しているだけで……。

 対生物では、理論上無敵のはずだ。

「今、こうやって役に立ってるからいいじゃん!!」

「……いや、魔法使いとしてどうかと思うぞ。怒られちまうぜ!!」

 しかし、頑丈は頑丈だった。

 体が崩壊しながらも、火球の雨は止まなかった。

「おう、いい感じで気合い入ってるぜ。サーシャ、それガンガンブチ込むぞ!!」

「……理論上、一回でいいはずだけど」

 まあ、どうせいっても聞かないので、私はガンガン呪文を唱えた。

 無駄といえば無駄な一撃がガンガン叩き込まれた。

 さすがに頑丈なヤツも、他の連中もガンガン撃ち込んでいる事もあってか、ようやく地に倒れた。

「なかなか気合い入った野郎だったけど、やれば倒せるってね!!」

 アリーナが笑みを浮かべた。

「まだ早いぞ。こまいのが腐るほどいるぜ。全部叩きのめすんだろ?」

「当然じゃ、ここまできたら殲滅してくれる!!」

 アリーナが再びうるさいヤツを走らせた。

「……なんとかなんないの、このうるさい音」

「馬鹿野郎、これがいいんだよ。これだから、素人は!!」

 大暴れした二十両は、一台も損傷する事なく仕事を終えた。

 これを契機に、この国が魔法工学に力を入れ始めたようだが、興味がない私には関係のない事だった。

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