第4話


「……ああ、うん。それでいいんじゃね?」


 彼からかかってきた電話の内容は明日の部活の練習メニューについてだった。


「うん……。分かった、そこはペアを作れば……ああ、じゃあ……また」


 電話を切り、小さく「ふぅ……」と息を吐いた。


「それにしても……」


 ふと今の電話を内容を考えると確かに、俺も副部長の立場としては知らないのはよくない……が。


「なんで今日の……今なんだ?」


 いつも彼はその日の練習メニューを当日に伝えてきている。だから、わざわざ休日の『今日』に伝えなくても何も問題はないはずなのだ。


「…………」


 それなのに、なぜか彼はわざわざ『今日』連絡してきた。


 正直「真面目な彼だから……」と言えなくもないが、肝心の電話の内容がそこまで『大事』なモノでもなかったから、わざわざ『今日』連絡してくる必要もない様に感じる。


「しかも、なぜ『今日』の……今なんだ?」


 さっきからまるで、ワザと俺の『昼寝』を邪魔しているようにしか思えない。


 せっかくの『昼寝日和』なのにも関わらず色々と予想外の事ばかり起き、一向に寝られていないのが現状だ。


「……俺は! 寝たいだけなんだ!」


 誰が聞いている訳でもない。


 でも、八つ当たりをしたい。それは別に人間である必要はない。とりあえず、口に出したいだけだ。


「…………」


 チラッと見た時計はもうすぐ四時を回る。さっきの練習メニューのやり取りのせいでかなり時間を食ってしまったらしい。


「はぁ……」


 いや、まだ大丈夫だ。


 いつもの通りで行けば母さんのパートの仕事も大体五時ごろに終わるだろう。今日は予想外の事ばかり起きているが、まだ寝られる……そう思い、俺は再度自室に戻り、布団をかぶった――。


◆  ◆  ◆  ◆ ◆


「……おい、おーい」

「……いいかげん起きなさい」


 聞きなじみのある声に薄っすらと目を開けると……そこには白い天井が広がっている。


「……ん?」


 どうやら俺はスッポリと被った布団を知らない内に蹴飛ばしていた様だ。


「はぁ……全く」


 チラッと顔を横に向けると、母さんが呆れた顔でため息とともに片手を顔に当てて立っている。


「あっ、母さんお帰り」

「お帰り……じゃないわよ。全く」


 なぜか母さんは少し怒っている様だ。


 確かに、電話口で少し大声を出してしまったが、とてもそれが母さんの理由だとは思えない。


「……? あっ、父さんもお帰り」

「俺はついでか……」


 ふと見ると、隣には父さんの姿もあったのだが……正直、俺の部屋に二人が一緒にいるという今の状況がものっすごく謎だ。


「えっ……? 何? なんで二人が……俺の部屋に?」

「ハハハ! 本当に忘れているんだな」

「呆れた……」


 母さんは小さくため息を吐いているが、なぜ母さんがそんな表情で、父さんが笑っているのか……俺には全然分からない。


「とにかく、顔を洗って着替えなさい」

「えっ? なっ、なんで?」

「いいからいいから。ちゃんときれいにして来いよー」


 結局、俺は二人から詳しい説明もされず、事情が分からないまま、着替えを抱え、洗面所へと放りこまれたのだった。

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