19-3

 秋葉原のゲーセンを通りかかった天津風唯(あまつかぜ・ゆい)は、センターモニターに映し出されていた人物に驚きを感じずにはいられなかった。3人チームの一人は見覚えがなかったのだが、その内の一人はアルストロメリアのメンバーでもある島風彩音(しまかぜ・あやね)である。


 そして、もう一人の人物は――センチュリオンだった。周囲はセンチュリオンとは気づかず、彼女も無名プレイヤーと認識していたようである。天津風は違うチーム同士で組めるのかと疑問に思うが、ホームページでイースポーツ大会の準備期間として仕様変更されていたのを思い出す。


(考えて見れば、そう言う事か)


 天津風は状況を何とか理解し、筺体が様々な場所で入荷すればプレイヤーも増えるだろう――とも考えた。しかし、ヒーローブレイカーに限った話ではないがAR版は筺体の値段が百万円を超える事もザラであり、チェーン店系列でなければ入荷出来ないとも言われている。


(しかし、レベル的にバランスの良いマッチングと言えるのか?)


 若干の疑問を持ったのは、島風の現状レベルとセンチュリオンのレベルが釣り合うかどうかである。対戦格闘等に代表されるゲームと違うので、プレイヤーレベルがゲーム中のレベルと同じか言われると全く違うのだが。


「ゲームバランスの調整って、アンノウン等のCPU絡みだけか?」


「レイドボスのパターンも改善したらしい。一部ボスはワンパターンハメまがいの攻略法もあったし、止む得ないか」


「レイドボスよりも、改善すべきはマッチング幅では?」


「マッチング改善は様々な場所でやっているはず。ただ、ARとVRで別マッチングと言う声もあったらしいが」


「別マッチング? データ処理的な事情か?」


「データ処理と言うよりはプレイヤーの人数や筺体の稼働数による物だろうな。今はAR版も増えている事もあって、AR対VRのマッチングも出来るようになったと言えるだろうな」


 周囲のギャラリーの声は、マッチング幅にも言及されていた。ここ最近のAR版筺体が増えている事も、今回のマッチング幅を調整した事に関係があるようだ。その一方で、どうしてAR版とVR版で別扱いにしなかったのか――という問題も再燃しそうな雰囲気がある。



(まさか、SNSで噂になっていたセンチュリオンと遭遇するとはね)


 島風はセンチュリオンとマッチングした事に驚きを感じる。彼女の実力はSNS上でもまとめサイトでも情報が乏しく、未知数と言うのが正しい。しかし、動画サイトにアップされているマッチングしたと思われる他プレイヤーの動画では、そこそこの動きを披露している。完全な素人と判断するには非常に難しく、アサシン・イカヅチのように他ゲーム経験者という可能性も高いだろう。


「こちらとしては、アルストロメリアのメンバーとマッチングするのは歓迎すべきと言うか――」


 センチュリオンは言葉少なげに語るが視線は島風の方には向いておらず、相手側の魔法使いに向けられている。


「お互いにゲームを楽しもう。過去はどうあれ、今は同じ気持ちだ」


 センチュリオンの一言に対し、島風は少し感覚を置いてうなずいた。現状で彼女を信じられないという訳ではなく、これはSNS上で言及されている事を気にしているのかもしれない。


「あのマッチングだと、島風達が勝つだろうな」


「マッチング幅的にも、向こうが有利に見える」


「相手側は明らかにソロプレイに徹底している。これでは勝ち目がないだろう」


「レイドバトルは個人プレイと判断するソーシャルゲームもあるが、ヒーローブレイカーは協力プレイが前提だ」


「誰もがヒーローになれるという意味を、プレイヤーは考えているのだろうか?」


「どちらにしても、そう言ったストーリーを理解しているプレイヤーは少ないだろうな」


「ゲームはプレイして楽しければいいのだが、細かいストーリーまで把握しているプレイヤーは吸ない。RPG等は別として――」


 ギャラリーからの声を聞き、天津風は何かを心配しているようでもあった。レイドバトルの本格化は、もしかすると何かを意味している可能性も高いが、真相は定かではない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る