12-3

 四月七日午後一時頃、アサシン・イカヅチを除いたアルストロメリアメンバーはヒーローブレイカーにログインしていた。照月(てるつき)アスカ、秋月千早(あきづき・ちはや)、木曾(きそ)アスナは同じゲーセンにいるのだが――。


「どうやら、二人は別のゲーセンからみたいね」


 別の二人とは、島風彩音(しまかぜ・あやね)と長門(ながと)ハルの事だ。ただし、長門は一プレイのみで別ゲームへ移動したようだが。


「他のゲーセンでも展開されているし、AR版とVR版でマッチングも可能――これほど凄いゲームとは思わなかった」


 島風はヒーローブレイカーの規模に関して、改めて驚いていた。公式ホームページでもチェックしているが、それ以上に実物は衝撃度合いが高いだろう。今回のマッチングは、長門が抜けた関係で秋月、照月、島風のマッチングとなった。相手はそれぞれ違うゲーセンのVRプレイヤーである。タイプはESPなので、別の意味でも照月は不利と言うべきか。それ以外にも、相手が全員ESPと言う事は――。


(全員が飛行能力持ちと言う事――?)


 さすがの島風も今回使用しているのがESPだが、三人共にESPを使われるとコアへ素早く移動される可能性が高い。飛行ユニットで移動と言う手段もあるが、こちらはタイムリミットがある。ESPもゲージ消費で飛行をするが、タイムリミットよりは使い勝手がいいだろう。


(やっぱり、こうなったか。ウィキにでも攻略法が載っていた?)


 秋月はカスタマイズなども戦略の一つとは理解しつつも、この状況はさすがにドン引きだった。まるでウィキや攻略サイトで書かれている様なテンプレ戦略が、あっさりと通じるはずもない。


「これは決まったな」


「ESPは、このステージでは圧倒的に有利だろう。飛行すれば、簡単なビルは飛び越えられるも同然」


「しかし、ESPは一定時間で回復するとはいえ、飛行能力はゲージ消費制度のはず」


「コアに一斉突撃すれば、どうなるかは想像出来るだろう?」


 そのまさかだった。相手は明らかに周囲のエネミーを完全に無視、コアへの集中砲火をする為に高速移動をしていたのだ。これには照月も気付いていたのだが、ESPの速度は何かがおかしかったのである。


(あの速度を素人プレイヤーがやれば、明らかに事故を起こすのは明白だ――)


 ESPの飛行スピードは、さほど速くはない。むしろ、地上のホバー移動やマシン移動の方が早い気配だってする。それが何故に高速で移動できるのか? この速度に疑問を持つ照月ではあるのだが、プレイヤーのレベルを踏まえると不思議と言わざるを得ない。


 ブーストレベルのスピードをゲージ消費なしで使える段階で、あるギャラリーが通報を行う。しかし、この通報は煽り目的の炎上ユーザーによる物と認識され、通報は無効となっている。


「ブーストと同じスピードはおかしいだろう?」


「チートプレイでは?」


「しかし、ヒーローブレイカーに関しては未プレイヤーの通報は不能となっているらしい」


「他のARゲームでは、ギャラリー通報も参考程度に扱っているのに?」


「そう言う事らしい」


 ギャラリーも、あのスピードは疑問に持つ。しかし、近い事を手動テクニックで行えるプレイヤーもいて、そうした事情で通報無効になったらしい。実際、動画でも高等テクニックを扱う動画で大量に出てくるのも、無効になった証拠なのだろう。



 その後、バトル結果はアルストロメリアの圧勝である。相手の方は確かにコアへ最速で近づく事は出来たのだが、致命的なミスをしている事でスコアを出せなかった。そのミスとは、周囲のエネミーを無視し続けた結果、コアの防衛に回ったエネミーに行動を読まれていたのである。これでは相手はなすすべなく倒されるのは明らかだ。やはり、ヒーローブレイカーはゲーム内容を理解し、把握する事が重要なのだろう。


「あれが、三笠の言っていたアルストロメリアか」


 秋葉原のゲーセンでセンターモニターを見ていたのは、天津風唯(あまつかぜ・ゆい)だった。プレイ結果に関しては、途中から予測が出来ていて見る価値も減ったのだが、最後までバトルを見極めた上で、センターモニターを離れた。


 彼女は引き続き秋葉原を活動拠点として、様々な情報を仕入れている。これに関してはどの勢力にも属さない独自行動と言えるだろう。その中で、彼女はSNS上で拡散する『ある噂』を発見した。その噂とは、超有名アイドル商法の事件を思わせるアレだったのである。


【様々なARゲームで炎上騒動が起きている。これが連鎖的に起きる騒動を予感させているだろう】


【しかし、それは特定ジャンルのファンが起こしているアンチ活動では?】


【それで済めば、ガーディアンが大きく動く訳がない。ガーディアンは特定ジャンルだけでなく、その他の炎上行為を摘発する勢力だぞ】


【ガーディアンは過激派勢力とも勘違いされている現状では、彼らの活動も炎上しておかしくはない】


 これらの情報からはじき出される物、それは日常の終わりを意味していた。ただし、そこから暴力が支配する様な世紀末世界になる訳ではない。あくまでも、ARゲームの世界が変化するという意味である。

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