7-2

 照月(てるつき)アスカと秋月千早(あきづき・ちはや)はその後も話を続けていた。今回はゲームをプレイするのも目的のはずなのに、一向に整理券発行を行う気配もない。


「結局、あの時に勢いでチームを作ったけど――」


 照月は仮チームだったあの時の事を思い出す。あれでもエラーが出ていないので、問題はないと放置はしている。しかし、最近になってバージョンアップというかバグ修正が行われたらしく、三人でチームと言うのが正式な挙動になった。あの時に認識したのは、もしかすると運営の認識していなかったイレギュラーだったのかもしれない。


「動画では基本的にチームモードは三人一組。チームと言うよりは、他ゲームで言う所のマッチングかな」


 出来た物は出来た物で指摘がないので放置しようと考えた秋月だが、それでも色々と複雑な思いはあるようだ。


「CPU一人でプレイヤー二人だと、やっぱり不利だよね」


 照月は自分のプレイスタイルもあるのだが、三人共にプレイヤーの方が有利なのではないか、と考える。チームモードでなければ、こう言うマッチングは成立しないし店舗によってはマッチングに幅を利かせている場合もあった。やはり、他の知っているプレイヤーがいた方が心強いという結論に至る。


「特に運営から修正要請が出ていない以上は、まだ放置していても問題はないかもね。ただ、マッチングの仕様変更でどうなるかは分からないけど」


 いくつかの動画をチェックしつつ、秋月は別の事を考えているようでもあった。この問題は放置するのではなく、運営側が違反だと判断した際に修正すれば問題ないという認識だろう。


(チーム名は――)


 その一方、照月は秋月の相談なしでチーム名を変更しようとしていた。仮名称のまま数日は変更出来ない訳ではなく、任意タイミングで変更が出来る。なお、有料オプションと言うケースもあるのだがヒーローブレイカーでは無料で変更可能だ。


「これって――!?」


 秋月の所に通知メッセージが届き、それがすぐに発覚する事になる。チームメンバーが加入する可能性を踏まえて、更新があった際にはメッセージが届く仕様にしていた。その為、照月がチーム名を変更していた事実もあっさりとばれてしまう。


「あれっ? サプライズ失敗?」


 照月は可愛い仕草でごまかそうとしたが、さすがに秋月はごまかせないようだ。変更したチーム名称はアルストロメリアである。花の名前が由来なのだが、ソレとは違った理由もあった。



 チーム名決定後、しばらくしてチームプレイを始める事にした。現状では仕方がないのでCPU一名は設定しているが、特に問題なくプレイは可能らしい。稀に別のプレイヤーがCPU代わりにマッチングされているが、これはある設定を変更し忘れている事が原因だった。


「たまに知らないプレイヤーがマッチングしているように見えるけど。三対三合わせ?」


(三対三合わせのマッチングは店舗設定のはずでは――?)


 照月に言われ、秋月は慌ててある設定の確認を行おうとするが、その設定はプレイ中には変えられない。これに関してはどうしようもないので、一度プレイを終了してから変更する事にした。おそらく、照月は通知機能をオフにしているので気付かれないだろう。


(ここまで挙動が変わったりすると、ARから始めさせたのは失敗だった?)


 秋月は逆にVRから始めさせた方が基本的な部分も把握できそうな気配もしたが、そちらよりもARの方がプレイしていて楽しいという事でARを勧めたはず。その方針さえ間違っていたと思わせるのは、さすがに考えものか――と言う事で、この話は置いておくことにした。



「アルストロメリアか」


 プレイ動画を見ていたのは、あの時に目撃されたぽっちゃりコスプレイヤーである。その人物が思わぬ個所で目立ったのには理由があった。長身の一八〇センチ位のコスプレイヤーも滅多に見かけない。島風彩音(しまかぜ・あやね)は一七〇には満たないし、一六〇近い身長のコスプレイヤーの方が多い印象はある。むしろ、一八〇の身長と言うのは別のフェチを呼び込みそうなレベルなのかもしれないが。


(ゲームと言っても、ARゲームは身体を使うゲームと聞いてるし)


 彼女は自分の手を見ながら、何かを考えている。ゲームと言えば主に動かすのは手位で、体感ゲームで足を使う位だろう。身体全体を使う筋肉痛になりそうなゲームは、逆に他のプレイヤーからは敬遠されそうな気配もする。


(中にはリアルの格闘技よりも人気なARゲームがあると言うし)


 色々と迷う部分もあるのだが、彼女は覚悟を決めてARゲームを始める事にした。


「むしろ、この手のゲームは俺の血が騒ぐ――って、俺ってまた使っちゃったか」


 ふと自分が口にした言葉を訂正するかのように、かわいい仕草をする。さすがに周囲は彼女の方を振り向く事はしない。彼女の名は木曾(きそ)アスナ、一応、マニア方面には人気のあるぽっちゃり――。


(自分もぽっちゃりでネット上に注目されているような物だから、これでこれでいいかな。ダイエットなんて無縁だし)


 ネット上ではぽっちゃりコスプレイヤーで通ってしまったので、今更ダイエットは無理な話だろう。しかし、それ専用のスーツがあるのか、色々とプレイする前から不安要素はある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る