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 三月三十日、照月(てるつき)アスカと秋月千早(あきづき・ちはや)は何時ものARゲームエリアへと向かった。入り口の自動ドアを抜けて少し歩いた先には、二人を待っていたかのようにある人物の姿がある。


 その人物の外見は、SF系のFPS等で良く見るようなパワードスーツ姿であり、その形状はヒーローブレイカーでは見かけないタイプだった。コラボイベントでもあれば、実装される可能性もあるが――様々な事情で実現するのは難しいだろう。


『あなた方のおかげで悪質なチートプレイヤーを通報する事が出来ました。その点に関してはお礼を言いたい』


「アシュラがチートプレイヤーだったと?」


『ええ。その通りです。彼の様なマナーのなっていないプレイヤーはARゲームにいてはいけないのです。いっそのこと、チートその物に罰金刑を適用するべきだと――』


「あなたの独自解釈は必要ありません。私たちはあくまでもARゲームを守るために行っただけの事ですので」


 男性の声がした一方で、何かボイスチェンジャーで声を変えている疑惑もある。体格も疑わしい箇所があり、性別がどちらなのかは特定が困難だ。しかし、そう言った事はどうでもいいという事をこの人物の発言から察した秋月は、早速用件だけを聞く事にする。


『――これは失礼。そう言えば、名前も名乗り忘れていましたね。とんだ無礼をお許しください』


 この人物は周囲の目線が自分に向いていないことを確認し、先ほどの謝罪をする。SNSに無断アップされるのを警戒しているのだろうか?


『私の名前はホワイトスナイパー。他のFPS出身ですがヒーローブレイカーも初期時代からプレイをしております』


「とりあえず、こちらも急いでいるので用件だけを簡潔に――」


 秋月はホワイトスナイパーに何か含みを持った発言がありそうな気配を感じるが、急ぐのは事実なので用件だけを伝えてほしいとお願いする。照月の方は秋月に任せる的な様子らしく、口をはさむような事は全くなかった。



『要件と言うのは、ある存在の事ですよ。都市伝説は知っているでしょう? ある謎の多いプレイヤーの話を』


(あるプレイヤー? まさか――?)


『そのプレイヤーが使うガジェットと言うのが、どうもヒーローブレイカーでは見ないタイプらしくて――』


(プレイヤーではなくガジェットの方か)


『それを知っている人物が、このコミュニティにいるという情報があります』


 ホワイトスナイパーがタブレット端末で見せたのは、有名プレイヤーと言うよりもマニアックなプレイヤーの情報を共有するコミュニティだった。そこでは都市伝説のプレイヤーに関しても情報交換が行われており、ホワイトスナイパーはそれを伝えたかっただけらしい。


『この情報自体はまとめサイトにもありますが、今のご時世でまとめサイトを頼るのはフェイクニュースを伝える原因になります。この情報は、アシュラを倒してくれたお礼と言う事で』


 アシュラに関して言及するホワイトスナイパーだが、この人物はダークフォースの単語すら出していなかった。何故、アシュラがダークフォースと言う事を知らないのか? まとめサイトでも書かれているはずの事を何故伝えないのか? おそらくはこの人物はまとめサイトに関して様々な不満があるのかもしれない。


『私の方も別件がありますので、この辺りで失礼いたします。少しの時間で済ませるはずが長く拘束してしまって申し訳ない』


 ほんの数分で終わらせるはずの話だったが、気付くと一〇分は消費していた。それに関して謝罪を入れつつ、この人物はそのまま別のエリアへ消えていく。何を伝えようとしていたのかは分からない。様々な伏線や謎を伝えるような役割の人物と言う可能性だってある。実際、ヒーローブレイカーのストーリーでも謎を残していくキャラクターは存在するからだ。



 その日の午後は、様々な上位プレイヤーの神プレイがチェックできたという事もあり、一部で盛り上がりを見せていた。その中でもバーチャルコスプレイヤーとしてネット上で話題となっていた島風彩音(しまかぜ・あやね)が、ひと際目立っていたのかもしれない。


「島風のARスーツ、まさかのカスタマイズで驚いたな」


「パイルバンカーと言う腕の装備だな。あれは当てるのが難しいと聞く」


「刀やビームブレードとは違うのか?」


「あちらよりは難しいだろう。どう考えても、あの大型武器をあの素早い動きで振り回すのは無理過ぎる」


「しかも、島風はAR側のプレイヤーだ。パイルバンカーがCGで出来ているとはいえ、重量がない訳はないだろう」


「まとめサイトでは、パイルバンカーのような大型装備でも重量は一キロ未満と言う話もある」


「何でもまとめサイトに依存するのは、感心しないな」


「まとめサイト否定か? 別のSNSサイトで話題になっている大和(やまと)に影響されたか?」


 島風のくのいちを連想する様な素早い動作は、リアルでもSNS上でも話題となっている。まとめサイトでも取り上げられるが、常人では出来ないような動きだからチートとレッテル貼りをする記事さえも存在していた。島風の動きがチートではない事はARゲーム乃プレイヤーからすれば、すぐに分かるような物だが。


(島風か。まさか、ホワイトスナイパーの言うアレを使っているのでは?)


 近くのセンターモニターで島風の動画が流れていたので、秋月も足を止めて動画をチェックする。そして、その動きを見てホワイトす八ないパーの言っていた何かを思い出していた。


(彼女が何かのガジェットを頼っているようには見えない。あの人物は、何を伝えようとしているのか)


 照月は島風のプレイを見て、以前の物とは違うレベルにまで上昇しているのは即座に分かった。しかし、それがガジェットに頼っているようには到底見えない。その為か、ホワイトスナイパーはかく乱を狙ってあの発言をしたのでは、と考えている。

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