イースポーツオブサンダーボルト(正式版)
アーカーシャチャンネル
第1話:そのゲームとの出会いは……
西暦二〇二〇年三月某日 自室にこもる一人の女性の目の前にはノートパソコンとしては異常な形状をした端末が置かれている。この端末は、俗に言うスマホやタブレットではない。これはゲームに特化したガジェットと呼ばれる端末。
スタンド立てがなくても自立しているのだが、そのシステムは謎の部分が多い。それ以外にも電力が太陽光を使った半永久方式等と説明書にはあったが、何処までが本当なのか?
「変わったゲームは――?」
私服が無地のTシャツにジーパン、身長164位の巨乳、緑髪のポニーテールと属性はあるのに、彼女の趣味はゲームだった。周囲の部屋は比較的綺麗になっているのに、テレビ周辺には複数のゲーム機が若干雑に置かれている。ちなみに、動画を見ている端末はパソコン用テーブルに置かれており、他のゲーム機とは干渉していない。
「この動画は珍しいけど、サムネ詐欺っぽい」
別の動画を再生せずにスルーした後に、その動画を発見する。動画のタグや再生数を比較して、彼女にとって目当ての動画と確認した。
【バーチャル動画投稿者大和のお勧めゲーム探訪】
彼女が見ているのは、動画サイトで公開されているひとつの動画だった。動画のタイトルからしてバーチャル動画投稿者と言う2.5次元の存在と言えるような投稿者による動画だが、そこではなく単純にゲームと言う単語で反応した可能性は高い。
サムネの再生ボタンをマウス等でクリックしなくても、画面にタッチするだけで動画は再生される。どうやら、タッチ式の新型ガジェットらしい。パソコンは別にノートパソコンを起動しているので、ガジェットは別扱いで電源を入れていたのだろう。
『西暦二〇二〇年代、世界的にもイースポーツが爆発的な人気スポーツとなった』
『戦争や紛争、テロと言った物が全て過去の物となり、海外でもありとあらゆる命のやりとりが関係する紛争は禁止』
『その中でマスコミの暴走等が問題視され、SNS上のフェイクニュースを鵜呑みにして拡散する様なまとめサイトが現れていく』
『だが、そう言った情勢は『彼ら』にとっては無縁だ。『彼ら』はイースポーツプレイヤーになる為に様々なゲームをプレイするからである』
『そのプレイヤーの一人でもある一方で女子高生ゲーマー、彼女の親友でもあり幼なじみに勧められたゲーム、それこそが『ヒーローブレイカー』と呼ばれるタイトルだった』
『二人はゲームをプレイしていく流れで、ある大きな事件に遭遇する。それが『ダークフォース』と名乗る勢力のヒーローブレイカー炎上計画だった』
ここで言う二人とはストーリーモードと思わしきモードで登場するプレイヤーだろうか。特に名前も言及されていないので、誰なのかは特定できない。
しかし、この動画で分かる事は『何かの悪い冗談』と言える。それは、内容がどうしても何か別の物を連想する様なオーラを放っているからだろう。
「これは? どういうゲームなの?」
動画を見ていた彼女は右手で口を押さえて驚く。動画の中身としては、女性のナレーションによる語りが入っているゲーム紹介と言うべきか。ゲームの内容よりもナレーションのインパクトがあるのは無理もない。そのナレーションを担当しているのが有名な動画投稿者だからである。
声を聞いて、誰なのかは特定が容易なのだが肝心のゲーム内容が把握できないのであれば、単純に動画としては失敗だろう。ゲームの画面も確認出来るので、語りだけがメインの動画でないのは分かる。しかし、その内容を解読するのは自分の役目ではない。
そう言った部類の役目は特定班等が行うべきだ。自分の仕事とは到底思えなかったのである。結局、思うか者ありつつも早送りせずに動画をそのまま視聴継続し、全てを確かめることにした。
「見た目はアクションゲームだけど、どちらかと言うとFPS系統か?」
FPS(ファースト・パーソン・シューター)、ざっくり言うと主観視点で進むシューティングゲームの事だ。海外では主に戦争やマフィアの抗争等をベースにしたような作品が生み出され、一大ブームとなっていると言ってもいい。
しかし、日本ではジャンルの特殊性もあって認知度が低い。臨場感を味わえる部分は大きいと思うのだが、あまり良い印象を持たれないのは、海外作品の暴力や残虐と言って表現による第一印象か?
他にもグロ等とは無縁なFPSもあるのに、こう言う状況になっているのも全てはゲハに代表されるネット炎上サイトによる印象操作が原因だ。
【それが『ダークフォース』と名乗る勢力のヒーローブレイカー炎上計画だった】
この部分がある意味で笑えない冗談と思ったのは、現在のSNSを巡る事件をヒーローブレイカーが何らかの形で参考にしたか――もしくはシナリオに組み込んだと考えられるからだ。
何故、このような事をゲームメーカーが行うのかは分からない。普通は炎上を招くような要素は最初から実装しないはずだ。最初からSNS上で話題になる為の意図的な物もあるかもしれないが、そこまでリスクが高い行為を行う必要性はないだろう。ゲームメーカーのイメージ的な部分もあるから。
『しかし、その人気が本当にマッチポンプではないのか――と疑問視する声がネット上でもリアルでも言及されていく』
『イースポーツに対する姿勢と炎上行為への警告、ゲーマーのモラル等が問われる事態となった今回の騒動は、ある人物によって作られたシナリオとも噂される』
『本当はゲーム内の出来事だけであったはずのSNS炎上、マッチポンプ、まとめサイト騒動と様々な部分がヒーローブレイカーのストーリーと現実がリンクしていく事で、大きくゲームは動きだす』
『普段と変わらないような日常は、ヒーローブレイカーの出現で非日常空間へと変化していたのである』
『君たちは、かつてWEB小説上のフィクションと切り捨てていたシナリオを――』
動画はここで終了している。途切れた訳でもなく、途中で削除された訳でもない。再生時間がここまでだったのだ。特に気になったようなゲーム画面はない。見た目としては明らかに一種の家庭用ゲームと変わりがなかったように見える。ゲーム画面と言っても開発中という記述があったのでこれは完成品とは断言できないのだ。
「ここで動画が終わりのはずは――」
彼女が動画説明文を見ると、次の動画リンクが記載されている。どうやら、自動的に進む訳ではなく、こちらへ誘導するという形だろうか。そして、リンクの動画を再生すると、そこには先ほどのゲーム画面とは全く別世界と言える物が流れていたのである。
【この世界はヒーローを求めている】
この一文が真っ暗な画面から表示されたと思った次の瞬間に、衝撃的な映像が現れた。
『ヒーローなんて、何処の少年漫画なのか――今の時代に求められているのは、我々だ!』
『これがゲームだって? 違うな。これは、リアルだ』
ゲーム画面とは思えないような実写映像が現れたと思ったら、そこには男性四人組が銃を片手に目の前に広がる商店街へと潜入する。この映像を見て、彼女は『明らかに炎上狙いの動画なの?』と思った。ハロウィン騒動等を初めとしたSNS炎上が記憶に新しいタイミングで、この動画は非常に危険だと考えた。
しかし、これを合成動画と言うには周囲の景色が微妙におかしいし、銃を持って商店街に入ったら警察を呼ばれるだろう。その証拠に、商店街の店舗は微妙にノイズが入る、重火器類はモデルガンと言うよりはデザインが特撮出出てくるような物なのも証拠になる。
彼女は動画を停止しようと手を伸ばしたのだが、すぐに止めようとはしなかったのである。全てを確かめてから評価しよう、と一呼吸。しばらく動画を再生し続けると、今度は四人組とは別の人物が姿を見せた。これによって、このゲームが対戦物だという事が判明する。
『これはゲームだよ。これがリアルだったら、お前達は既にこの世界にはいない』
男性四人組をあっさりと倒した人物、それは現代世界から見れば異質な存在だった。装備は四人組とは違ってSFモチーフであり、持っている武器は青色のビームカッターと言うべき銃剣、更に言えば目の前の人物はパワードスーツを装着していると分かる。
四人組は動きからして、そこそこのプレイヤーなのだろう。顔は見えなかったが、実況者と言う事であれば顔を隠す理由も納得できる。しかし、それを一蹴する様なこの人物は更に上の実力者かもしれない。まるで、あの人物はプロゲーマーと言う疑惑さえ浮上するレベルで。
『これだけは断言しておこう。このゲームは自分だけが良ければ他はどうでもいいと考えるような連中に、荒らさせはしないという事だ!』
声はボイスチェンジャーを使っているようで、男性声になっていたが口調からすると女性かもしれない。この人物が何者なのかはどうでもいいが、動画を見ていて分かったのはこれはゲームである事だ。
「拡張現実――ARゲームとでもいうの?」
彼女、秋月千早(あきづき・ちはや)は自分が見ていた動画がARゲームだという事を認識した。動画の撮影場所も埼玉県草加市と明記されており、これによって謎は解けたとも言える。
(草加市は確かにARゲームを広めようと動いている話は聞いたことあるけど――)
秋月は動画が終了したタイミングで、落ち着いて考えていた。コンテンツ流通を変えようと動いていたのは他の都道府県でも事例がある。ARゲームをピンポイントに選んで拡散しようとしたのは何かがありそうだが、本当に草加市が主導で拡散しようとしているのか?
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