4月15日 くたばれ体力テスト

「ハァ、ぐっ、はッ…!」

荒い息を継いで、たったの20mを走り込む。

鳴り響くブザーと、90を刻む数。間髪おかずに来る91回目のターム。

最初は共に白線へ並んだ戦友たちも、既に7割が散っていた。

意識が朦朧とする。


『大師線は、もっとつらい思いをしたんだぞ!』


そのとき、脳裏をよぎる声。

そうか、そうだ。東武大師線は一日に110往復の運用がある。たかが20mを90走り込んだ程度で音を上げては、電車に笑われる。

ド・レ・ミ・ファ・ソ…、体育館中に響き渡る死へのカウントダウンは、一昔前の京急電車を彷彿させる。そうだ。俺は――!


ヴヴゥウン…、バァッ、ボッ…!

奇妙な息継ぎを繋いで、電車顔は走る。

地を蹴るたびに、ガタンゴトンと聞こえてくる。


途中で放棄リタイアした運動部の陽キャたちが面白半分で僕に声を投げかけるものの、100を越えたあたりで笑い声が止まった。

そう。そこに走っていたのは、体育会系に意地張る汚くて醜いオタクではなく、――純粋な『電車』だったのだ。


今や誰も疑問を持たない。

電車が走っている。

本日の運用に就いている。ただそれだけ。


ガタン、ガタン、ゴトン。


定着。戸閉ブザー、出発進行。

定時発車。ド レ ミ ファ――!


遅れなし。本日の運用、残り10往復。

ガタン、ガタンゴトン❗ ウー❗



「プシューッ…。」

鳴り響く110回目の到着ブザーと共に、俺は車庫へと戻る。

脚という名の車軸は焼き切れていた。整備不良だ。普段は家と学校を一往復するだけのローカル線なので、酷使に慣れていないのである。


今年で車齢16年なのだから、"走ルンです"としてはよく頑張ったほうだろう。

俺も長野で解体か。けれど、こうして運用をやり切ったのだ。悔いはない。

空を仰ぐ俺に、ある電車部員が声を掛けた。


「大師線は110往復だから220だぞ」

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