第3話 見知らぬ男
ドンドン……ドドドドドーン。
「いったぁ……い」
痛みで地面に這いつくばったまま、上を見上げると、小さな四角い穴と、細い階段が見えた。どうやらそこを落ちてきたようだ。
痛む背中や腕をさすりながら立ち上がり、懐中電灯を拾って周囲を照らす。六畳くらいの、土壁に空気穴のついた小さな地下室のような場所だ。
その時、視界の隅で動くものがあった。
身構えて灯りを向けると、白い羽織と藍色の袴、細身だけど背の高い男の人が立ち上がる。つやのある黒髪を後ろで束ね、切れ長の眼につんととがった鼻。光が透けるような真っ白い肌。
こんな、ずっと開けてなかった所に人なんているはずがない。
あ、でも、もしかしてホームレスが住み着いている、とか?
じゃ、あの格好は何?
田舎のホームレスは和服なの?
……そんなわけがない。
と、いうことは……
たどり着きたくない結論は、その姿を見た時からずっと、頭に浮かんでいた。
これって、幽霊? ……だよね。
彼は私に視線を向けると、まるで、それこそ幽霊でも見たみたいに、眼をしばたき、口を半開きにしたまま、動きを止めた。
「……雪」
その人は、私の名前を、呼んだ。
「え?」
なぜこの人は私の名前を知ってるんだろう。っていうか、幽霊に遭遇したんだから、今はとにかく逃げなくてはならないのでは?
頭の中をぐるぐる疑問と恐怖が渦巻いている中、呆然としていた彼の顔が歪んだかと思うと、鋭い眼で私を睨みつけた。
「よくも……よくも俺を……裏切ったな。雪」
裏切った? 初対面の幽霊を?
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