ACT2

 まず、なんで拳銃一丁のメンテのために、東京から横須賀くんだりまできたか?

 国家試験にパスして免許を持てば、探偵だって仕事上に限って拳銃の所持・使用・携帯が許されるってのは、前にも話したよな?

 当然だが、拳銃や弾丸を購入、そしてメンテナンスを行う店は全て同じところでなければいけない。

 俺の場合、それがこの神奈川県横須賀の『山中のおっさん』の『山中銃砲店』だった。そういう訳なのさ。

で、選んだ先を警察に届け出て、購入した後、銃の型式、シリアルナンバーも、ついでに警察に登録する。

 それで初めて探偵さんは銃が持てるというわけだ。

それから、今のところ私立探偵は一人につき一丁しか所持が許されていない。

新しい拳銃に替える際には、また警察に届けを出して、受理して貰い、古い拳銃は警察に渡すか店で処分して貰うか・・・・

 いずれにせよ、面倒めんどくさいには違いない。

 しかしそう決まっているんだから仕方がないだろう。

 この節、日本だって今はアメリカみたいに無登録の銃がなし崩しに大量に出回っている。

 だからせめて探偵だけでもこうした規則に従っておく必要があるのさ。

 お上の規則に縛られるのは業腹だが、まあ独立してやっていくには、このくらいは我慢しなくちゃな。

ええ?

(だったら何でM1917みたいな古い銃にしたんだ。もっと最新式で大口径の拳銃なんか幾らでもあるだろう?)

 嫌なことを聞くねぇ。

 そう思うのも無理がないか・・・・

 値段が安かったってことが第一、次に頑丈で壊れにくいってこと。

 他にも・・・・・まあ、慌てるな。これから順繰りに話してやるよ。


 あれは、俺が自衛隊を退職し、某大手私立探偵社に入って、1年ばかり経ってからだったかな?

 こっちは元々武器の扱いには慣れていたが、探偵の方は全くのド素人同然だった。

 あ、入社したからってすぐに拳銃を持って、現場に出られるわけじゃない。

 約半年間は座学と実務の研修を受ける。

 それが終わると、ようやく先輩と組んで助手みたいな役目をしながら『探偵』ってのがどんなものかを学んでゆくというわけだ。

その時組んだのは、元警視庁さくらだもんの銃器対策課上がりの、平山行蔵って名前のヴェテランだった

年齢はその当時で50代後半、背は低いが、がっしりした体格の、いかつい顔をしていた。

仕事熱心で口うるさく、自分が納得いかなければ例え上司だろうと食って掛かるという一本気な性格だった。

『探偵のイロハ』を俺に一から叩き込んでくれた。

 まあいわば『探偵の師匠』って訳さ。

 平山先輩は別名『新人殺し』というあだ名がついていた。

 俺は陸自に居たくらいだから、少々のしごきは屁でもなかったが、多くの同僚たちが音をあげて職場を去っていった。

 しかし、俺が今探偵としてやってられるのは、この人のお陰でもあるんだ。

 まあ、暇があるならそこに坐って耳を傾けてくれ。

俺の昔話なんて、滅多に聞けるもんじゃないぜ。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る