215:ちょっと俺には荷が重いぞっ!

「あ、モッモ~。こっちこっち~」


食堂へ向かうと、グレコが席を確保していてくれた。

もうかなりの人数が集まっていて、みんな夕食を始めている。


コックのダーラが作る料理はどれもこれも、基本味付けが濃くて、とってもスパイスが効いてて刺激的だ。

ダイル族の郷土料理だろうか、この五日間で、見た事の無い物も沢山出てきた。

だけど、全て美味しいので、色々食べているうちにスパイスにも慣れていった。

ただ、元々甘党なギンロには厳しかったらしく、三日目の朝には根を上げて、ダーラに頼んで甘い蒸しパンを焼いてもらっていた。


そのギンロはと言うと……


「あら? ギンロはどうしたの??」


「あ~、あいつなら今、部屋のベッドで伸びてんだ」


「え? 何かあったの??」


「それが……、やめときなよって言ったんだけど、お風呂で心頭滅却とか言って、長い時間湯船に浸かり続けててさぁ。一緒に浸かってたライラックとブリックも、今頃部屋でダウンしていると思う」


そう……

結局、あの筋肉馬鹿三兄弟は、揃いも揃って逆上せてしまったのである。

俺とカービィじゃどうしようも出来ないので、たまたま浴場の近くにいた騎士団の副リーダーであるアイビーや、衛生班のアルパカ人間エクリュに手伝ってもらい、なんとか三人を部屋のベッドまで運んだのだ。

カービィの応急処置で気分は落ち着いたものの、とても夕食を食べられそうにないとギンロが言うので、部屋に残して来たのだった。


「呆れた……。そこまでいくと、筋肉馬鹿って言うより、ただの大馬鹿者ね」


うん、俺もそう思うよ。

けどグレコ、許してあげてね。

なんせギンロはまだ十五歳、しかも中二病。

初めて出来た男友達と、馬鹿な事してみたかったんだよきっと。


「部屋に戻る時に、おいらが蒸しパン貰って帰ってやるよ。だから気にせず、おいら達は食べよう!」


そう言って、カービィは席を立ち、カウンターに立つダーラに料理を注文しに行った。


「モッモさん、お食事前にすみません。少しお話よろしいですか?」


とても丁寧な言葉で話しかけて来たのは、騎士団の一員、鹿人間のパロットだ。

エラフィ族という種族の獣人で、クリーム色に茶色の斑点が混じった毛並みに、黄緑色の目と、長い鹿のような角を持っている。

俺と同じく魔力は持っていないらしいが、様々な遺跡に自ら足を運び、古代魔法の研究を独自に続ける事で、ビーシェント魔法学校に入学する事が出来、更にはその年の首席として卒業している強者である。

カービィとはまた別の意味で、彼はみんなに一目置かれている存在のようだ。


「あ、はい、よろしいです。どうされましたか?」


出来る限り、丁寧な言葉で返す俺。


「食後にノリリア副団長から、明日からの探索プロジェクトにおける日程などの御説明があるのですが……、予めお伝えしたい事がございまして。モッモさん、故アーレイク・ピタラス大魔導師が、あなたと同じ時空王の使者であった事は、ノリリアよりお聞きしておりますか?」


「はい、お聞きしてます」


「ならば話が早い。今回あなたは、四人弟子の隠れ家に施されているであろう守護結界を解く為に今プロジェクトに参加されておられるわけですけれども……、実はもう一つ、大事な役目をお願いしたいのです」


「大事な役目……?」


「はい。これはまだ仮説の域を出ませんが、故アーレイク・ピタラス大魔導師が時空王の使者であったのならば、もしかするとですが、同じ時空王の使者であるあなたにしか解けない何かが、この先に待っている可能性があります。ですので、探索プロジェクトの間は、極力ノリリア副団長の元を離れないで頂きたい」


「は、はい……。その、僕にしか解けない何かって……、鍵とか、そういう事ですか?」


「……正直、私めにも分からないのです。けれども、故アーレイク・ピタラス大魔導師が、生前唯一執筆した著書の後書き部分に、妙な一文がありましてね。《扉を開けたくば、我が力と同等の者を頼れ》と書いてあるのですよ。この扉というのはおそらく、墓塔の事を指していると思われます。なので、もしかすると……。あなたがいなければ、そもそもこのプロジェクトは無駄に終わっていたかも知れない、という事なのです」


うわ~お……、もしそうなら、めちゃめちゃ重要人物じゃんかよ俺ってば……


「良かったわねモッモ、頼られてて」


ニコッと笑うグレコ。

まぁ……、頼られている事に悪い気はしないのだけど……

ちょっと俺には荷が重いぞ!


「ノリリアから離れないでって言うのは、どういう意味なのかしら?」


「後で説明がありますが、ピタラス諸島第一の島であるイゲンザ島の探索は、二つのグループに分かれて行われる予定なのです。リーダーのノリリア班と、副リーダーのアイビー班に分かれます。その際、モッモさん達はノリリア班に配属されますので、出来る限りノリリアの側にいてください。彼女はああ見えても、首席候補に上がったほどの魔法の使い手。どんな困難な場面でも、彼女がいれば怖いものなしと思って下さって結構です。その他のピタラス諸島にも、野蛮な原住種族を初めとし、様々な危険生物が数多く生息します。いつ何処で、何が襲ってくるやも知れませんのでね。……とは言いましてもまぁ、モッモさんにはグレコさんやギンロさん、カービィさんも仲間として側に居るでしょうが。念には念を、です、はい」


ふむふむ、なるほど、そういう事ね、はいはい。


……やっぱり、ピタラス諸島って、そんなに恐ろしい場所なのかね?

いつ何処で、何が襲ってくるか分からないってそんな……


ガクブルガクブル


「うぇ~い♪ 今夜はダーラ特製の青魚のフライとシチューだぜぇっ!! って、おうおう? どうしたモッモ?? そんな青い顔して」


何やらハイテンションで戻ってきたカービィに対し、俺は冷たい視線を向ける。

その手には大きなお盆を持ち、ほかほかのシチュー三皿と、大皿に山盛りの魚のフライが乗っかっていた。


確かにどちらも美味しそうだけど……

なんだか俺、食欲失せたかも……


「カービィさん。後ほどノリリアの部屋にお越し頂けますか?」


「なんっ!? なんでだっ!??」


パロットの申し出に、必要以上に拒否反応を示すカービィ。

いったい、君とノリリアとの間に何があったのだね?


「決起会で大まかな日程の説明をノリリアがしますが、細かい部分を詰めるためです。なに、私とアイビー、インディゴとロビンズも参りますのでご安心を」


「お、ほっ……。わかった、ちゃんと行くよ」


「よろしくお願いします。……では、お食事を楽しんでくださいませ」


そう言って、パロットは自分のテーブルへと戻って行った。


「……私達じゃ役不足って言いたかったのかしら?」


ちょっぴり怒ったような表情で、グレコが呟く。


「ん~、そうじゃねぇと思うぞ。おいらも行ったことないからわかんねぇけど、パロット学士があぁ言うんだ、ピタラス諸島はそれだけ危険な場所だって事なんだろうな。まぁ、モッモにはこの間見せたけど、かなり凶暴な獣や魔物も多数生息しているはずだし……。あ~、でも安心しろモッモ! おまいさんの事は、この虹の魔導師カービィ様が、命をかけて守ってやるぞ☆」


どんどん青くなっていく俺に気付いたカービィが、茶目っ気たっぷりにウィンクをしてみせた。


……その言葉、信じていいんだよね?

本当に、頼むよカービィ、グレコ、ギンロ。

俺はまだ、あの世になんて行きたかないからね。


「大丈夫よモッモ! いざとなったらあなた、精霊を呼べばいいんだから!! 気をつけなきゃいけないのは、何が起きてもパニックにならない事!!!」


……そんな事言われてもぉ。

この間のミュエル鳥の時みたいに、パニックになるならない以前に瞬間的に襲われちゃったら、どうしたらいいのさ?


「そうだぞ! いつでもこう、ドーンと構えていろモッモ!! 全てはメンタルからだぞ!!!」


……今更、精神論なんてよしてよカービィ。

それでなくても今、俺のメンタルがたがたなのにさぁ。


「はぁ……。お願いだから二人共、僕から目を離さないでね。お願いします」


ペコリと頭を下げる俺。


「任せてっ! 絶対にモッモを危険な目には遭わせないわ!!」


うん、グレコや……

そろそろ清血ポーション飲もうか、髪の毛がちょっぴり茶色がかっているよ?

島に着く前に、君に襲われたくはないからね。


「おうよっ! 例え何かの腹の中に入っちまっても、必ず助け出してやるから安心しろっ!!」


うん、カービィや……

お願いだから、何かに食べられちゃう前に俺を助けておくれよ。

胃の中の景色なんざ見たくないからね。

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