171:丸焼きピグモル
「お~い! みんなぁ~!!」
船首のヘリに立ち、手摺から身を乗り出して手を振る俺。
「モッモ~! 大丈夫~!?」
「無事で良かったなぁ~!!」
こちらに向かって手を振るグレコとカービィの姿が見えた。
二人の隣にはギンロもいる。
港の波止場には、手に明かりの灯ったランプを持つ、警備隊であろう紺色のカチッとした制服に身を包んだ、大勢の獣人達が立ち並んでいる。
そしてその中に、今回の黒幕であろうユーク・ブーゼの姿も……、ん? あいつ、何してんだ??
ユーク・ブーゼは、宝石が埋め込まれた杖を両手で握り締め、こちらをキッ! と睨みつけて、何やら呪文でも唱えるかのごとく小さな口が動いている。
なんだろう……、とっても嫌な予感がする……
「モッモ君! こっちへ!!」
何かを察知したらしいサカピョンが、俺の背後で叫んだ。
すると……
ドッヒューン!
何か、花火のような、大きな物が空に打ち上げられる音がして……
夜空を見上げると、そこには赤い光がちらちらと揺れて……、んんっ!??
ヒュルルルル~、ズドドドドンッ!!!
「うわぁあぁぁっ!??」
「キャアッ!??」
悲鳴をあげる俺とフェイア。
縄に縛られたまま、慌てふためく茶色ラビー族たちとターク。
空に打ち上げられた真っ赤に光る大きな玉が数個、頭上から降り注ぎ、船を襲ってきたのだ。
ボボボボォオォォッ!!!
光る玉は船体に直撃し、船全体が激しく揺れ始めると同時に、着弾した箇所からは炎が上がった。
メラメラと燃え上がる赤い炎は、瞬く間に広がって、船は轟々と激しい音を立てながら燃え始める。
うぎゃあっ!? 火事だぁあぁぁっ!??
「くっ……、ほらっ! 早く逃げてっ!!」
甲板で縛られたままだったラビー族たちの縄を切ったユティナは、彼等に海へ飛び込むよう指示する。
「モッモ君! この船はもう駄目だっ!! ミー達も海へっ!!!」
「ふぁっ!? ふぁいぃっ!!!」
足元がグラグラと揺れる中、床から燃え盛る炎をなんとか避けつつ、ユティナとサカピョンの元へ走る俺。
船の手摺をよじ登り、次々と海へ飛び込んで行くラビー族達。
タークも必死の形相で海へと飛び込んだ。
逃げ遅れた奴は居ないかと、辺りを見渡すユティナ。
「もう皆飛び降りた! 行くぞユティナ!!」
「えぇ! モッモ!! 大丈夫!??」
「ふぁっ!? ふぁいぃっ!!!」
サカピョン、ユティナも、手摺を乗り越えて海へと飛び込む。
そして残った俺も、うんしょっ! と手摺に登って、さぁ! 飛び込むぞ!! っと思ったのだが……
「ぐえっ!?」
途端に首が絞まり、手摺の上で尻餅をついた。
なんだぁっ!? 引っ張ってるのは誰だぁっ!??
険しい表情で背後を見やると……
「……ん? あぁっ!? 引っかかってるぅっ!??」
なんと、ローブの裾が、手摺の根元部分にある妙な出っ張りに引っかかっているではないか!
そして、俺の腕が短過ぎて、いくら一生懸命手を伸ばしても、手摺の上からではそれを取る事が出来ないっ!!
グイグイと引っ張ってみても、取れないっ!!!
しまった! やべぇっ!! やべぇぞぉっ!!!
火の手はすぐそこまで迫っている。
もはや周りは赤一色の火の海だ。
あぁあっ!? このままじゃ、こんがり焼けた丸焼きピグモルになっちゃうぅっ!??
半泣きになりながら、ガタガタと震える俺。
すると、隣からスッと白い手が伸びてきて、引っかかったローブをそっと外してくれた。
「あ……、ふぇ、フェイア!!」
ブワァッ! と涙を零す俺。
パニックになってすっかり周りが見えていなかったが、隣にはまだフェイアがいてくれたのだ。
フェイアは、俺に向かってニッコリと笑い、そして……
「モッモさん、行くよ!」
「へっ? うわぁっ!?」
俺はフェイアの小脇にヒョイと抱えられて……
「のわぁあぁぁ~っ!??」
そのまま二人一緒に、海へとダイブした!!
ブクブクブク
「ぷはぁっ! はぁ、はぁ、はぁ……、うっ、げほっ!!」
しにゅ……、死んじゃうぅ~……
「モッモさん大丈夫!?」
「げほっげほっ! うぅ……。うん、だい、だいじょうびぃ~」
フェイアに支えられながら、仰向けで海面に浮かぶ俺。
ピューっと口から水を吐き、空気を取り込もうと大きく息をする。
一緒に飛び込んだはいいものの、着水の衝撃でフェイアの手を離れてしまった俺は、海中でバタバタともがくも、ズーンと沈んで行って……
本日二回目、危うく溺死しそうになっていたのだ。
フェイアがそんな俺に気付いて助けてくれたおかげで、なんとか今、生きてます。
……気付いたんだけど、俺、泳ぎが下手らしい。
手足を動かしても、全く浮かぶ気配がないのだ。
こんなに、身体中に浮き輪を付けているというのに?
しかしまぁ、泳げなくても当たり前か……
ピグモルとして生まれてから、泳ぎの練習をした事なんて一度もなかったわ!
村の近くの小川は、普段は俺の足首までしかないような浅さだし、雨が降って深くなっても、腰くらいまでしか水嵩は上がらなかったから。
クロノス山から河に飛び込んだ時に助かったあれは……、うん、奇跡だったんだな。
「……なんて酷い事をするのかしら」
轟々と燃え盛る船を見つめ、フェイアが呟く。
船体も帆も、全てが炎に包まれて……
もうこの船は、燃え尽きて沈む以外に道はないだろう。
ほんと、なんて酷い事をするんだ……
危うく死ぬとこだったぞ!?
「モッモ君!」
名前を呼ばれて振り返ると、そこにはサカピョンとユティナの姿が。
二人とも無事なようで、上手に立ち泳ぎしている。
「港までもうすぐだ! このまま泳いで行こうっ!!」
サカピョンの言葉に、港へと泳ぎ始める二人。
周りのラビー族達も、タークも、港へと泳いで行く。
俺はというと……
「モッモさん、出来るだけ体の力を抜いててね?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
フェイアの邪魔にならないようにと、これでもかってくらいに脱力する俺。
頭上の星空を眺めながら、スーッと海を流れて行く。
……うん、泳ぐ練習しなきゃな。
これはいくらなんでも、格好悪過ぎだろう。
こんなんじゃ、この先の船旅が心底心配である。
仰向けの状態で、海面にプカプカと浮いたまま俺は、港までフェイアに引っ張って行ってもらったのだった。
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