159:サカピョンかっけぇっ!

「魔結界とは、その名の通り、魔力によって作られた結界の事だ。結界とは、ミーたちが存在するこの世界の空間のうち、何らかの意図で隔絶させたい場所を、魔力や霊力、その他の力で区切る方法の一つだ。今、このミーの周りを取り巻いている魔結界は、中にいる者の魔力を無にする力が働いているらしい。だからミーは、ミー自身にかけていた魔法が解けて、このような姿になってしまっている、というわけなのだ♪」


にこやかに説明する、黒サカピョン。

檻の中にいるなどとは思えないほど、その笑顔は爽やかだ。

しかし……


「あのぉ……。魔結界が何なのかはだいたい分かったんだけどもぉ……。僕そのぉ~、魔力が皆無でしてぇ~。たぶん、魔結界を解くのは無理かと……」


そう、俺は魔力ゼロの無物なのである。

そんな俺が、どうやってあの紫色の光を放つ、すっごくちゃんとした感じの魔結界を解くことが出来るというのか……

それに俺、今現在、魔結界こそないけれど、サカピョンと同じく檻の中なんですけど。


「いや、ユーなら出来るとも。ユーには精霊を呼ぶ力があるだろう? この魔結界を解くことの出来る精霊を呼べばいいのだよ♪」


ほう? なるほど精霊を……、って、なぜにサカピョンは俺が精霊を呼べる事を知っているのだね??


「さぁ、早く召喚したまえ。でないと、せっかちなミーの相棒が、そこの扉を蹴破って入ってきてしまう」


え~、そんな事言われても、何が何だか分からんのですけど~?

ミーの相棒って、あれよね、癖っ毛の彼女よね??

……え、此処にいるの???


「えっと……。正直に言うと、魔結界を解ける精霊が誰なのか、分からなくて……」


とりあえず、サカピョンに言われた通りに魔結界を解くとして、どうすればいいんだ?

風の精霊シルフのリーシェ……、じゃ無理だろうし、火の精霊サラマンダーのバルン……、も無理だな。

あとは……、あいつは無しだ、あの魚野郎。

じゃあ、あとは……、光の精霊のレイア様……、は、来てくれないよねぇ~。


「闇の精霊が良いのではないかね? 確か、魔力や霊力によって作られた全てのものを無に還す力を持っているはずだ」


ほほう? 闇の精霊とな??

一度も呼んだことないな~、と言うか、闇の精霊なんて呼んで平気なのか???


……にしても、何故そんなにも精霊に詳しいのだろうか?

サカピョンはただの吟遊詩人ではなかったのか??


それに、ラビー族は獣人であって、魔獣ではないはずだ。

さっきの口ぶりだと、自分自身に魔法をかけて、黒い毛並みを白にしていた、と言うことになるが……

獣人にも、魔力を持つ者がいるということか?

……そんな事、カービィは言ってなかったぞ??


魔結界が張られた檻の中にいるというのに、あの余裕の笑顔、落ち着いた雰囲気といい……

やはり君は、只者ではなかったのだな、サカピョン!?


だがしかし、闇の精霊なんて……


「闇の精霊って、そんな……。会った事もないし……。それに、闇って……、なんか怖くない? 呼んでも大丈夫なのかなぁ??」


『会った事もないとは、とんだ間抜け野郎だなお前は~』


聞き覚えのある声に、俺はくるっと左を向く。

そこにあるのは、暗闇にユラユラと揺らめく、二つの光る目。


「うわぁっ!? なんっ!?? なんだぁあぁっ!???」


大声を上げて驚き、逃げ場のない檻の中でバタバタと暴れる俺。

なんとも言えない、どんよりとした匂いを鼻が嗅ぎ取る。


『ふん。のんびり屋な上に、物覚えも悪いときちゃ、救いようがねぇなぁ~』


ふわふわと暗闇を漂うように、俺に近付いてくる二つの目。


「わわわっ!? こ、こっち来るなぁっ!??」


檻の鉄棒に縋り付き、ガタガタと震え、今にも泣き出しそうな俺。


こ、怖いよぉおぉぉっ!!

目玉がぁっ!?

目玉が宙にぃ、浮いているぅうぅぅっ!??


『何を怯える必要がある? 俺は、てめぇに呼ばれてここへ来たんだぞ??』


二つの目が、顔の真ん前までやって来てそう言った。

すると、あら不思議!?

だんだんと、目の前にいるそいつの姿形が、くっきりはっきりと見え始めたのだ。


周りの暗闇から、もくもくと煙のように現れたその体は、肋骨が浮き出るほど、ガリガリに痩せ細っている。

薄っぺらい影のようにヒラヒラと揺らめいて、足はなく、細長い腕をだらんと下に垂らしている。

その表情は目付きが悪く、まるでこちらを睨んでいるかのようで……

全体的になんだか気怠そうでヤル気が感じられないし、こう言っちゃなんだけど、とってもとっても、陰険な顔付だ。


「ユーは闇の精霊か? あまり礼儀を知らぬ者と見えるな、契約主に対する物言いとは思えぬ……。召喚された身なのならば、頭を垂れて、契約主に敬意を示すべきではないかね??」


サカピョンが、離れた場所から助け舟を出してくれた。

なかなかにキツイ物言いに、目の前の闇の精霊の顔が歪む。


『はっ……。気まぐれで神に選ばれ、召喚の意味も知らないような野郎が俺の召喚主だと? 笑わせてくれるぜ……。俺はなぁ、情け無いこいつの為に、仕方なくここへ来てやってんだよぉ!?』


うぅぅ~、こ、怖い……

田舎のヤンキーみたい……

今まで出会って来た精霊たちの中で、間違いなく、一番厄介な奴なんじゃないかこいつ……?


「ふむ、勘違いも甚だしい……。時空王クロノシア・レアに使者と定められた時点で、モッモ君は立派なユーの契約主なのだ。その契約主に対する侮辱は、ひいては時空王に対する反逆ともとれよう。ユーが態度を改めぬのなら、ミーが時空王に進言する事も出来るのだぞ? モッモ君に使えている闇の精霊は、ヒーには相応しくない、即刻別の者と交代させるべきだ、とな……。どうする?? それでもユーは、モッモ君を主と認めぬと言うのかね???」


サカピョンの言葉に、闇の精霊は明らかに怯む。

歯を食いしばったような顔をして、悔しそうにサカピョンを睨んでいる。


サカピョンかっけぇっ!

闇の精霊を黙らせるなんて、めっちゃかっけぇえぇっ!!


……でもさ、今、なんかいろいろ言ってたよね?

時空王とか、俺のこと使者だ~とかさ。

それって……、どうして知ってるのかな??


『かっ!? 仕方ねぇなぁっ!!』


おぉっ!? びびったぁっ!??

いきなり叫ぶんじゃないよっ!!!


『俺の名はイヤミー。闇の精霊ドゥンケルのイヤミーだ。……ちっ! 二度と名乗らせるんじゃねぇぞっ!!』


なんで自己紹介してキレてんすかぁっ!???

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