135:グレコにばれないようにする同盟!

「ニ十八、ニ十九、三十……。うん、何度数えても同じだな」


「うぅ~、どうしよぅ~」


宿屋、隠れ家オディロンに戻って来た俺とカービィ。

どうやら、ギンロとグレコは二人でどこかへ出かけたらしいのだが……

今、ここにグレコがいなくて良かったと、俺は心底思っている。


頭を抱える俺と、眉間に皺を寄せて腕組みするカービィ。

ベッドの上には、紙幣と硬貨が並べられていて……

何度数えてもそれは、31300センス、しかない。

そう、これは、今現在の、俺たちパーティー四人の全財産である。


「ちょっと調子に乗って装備品を買い過ぎたな~」


いつものヘラヘラした様子ではなく、神妙な面持ちのカービィ。


「うぅ~、僕があんなに高い盾を買ったりしたからぁ~」


壁に立て掛けられている、プラチナでコーティングされた、エルフの銀の盾を恨めしく見る俺。

しかし、その盾があまりに美しい為に、今更払い戻しに行く気にはなれない。


ギンロの魔法剣が810000センス、グレコの魔法弓が360000センス、俺のエルフの銀の盾が640000センス……、つまり合計で1810000センスもの大金を、計画性もなくポーン! と使ってしまったのだ。

テッチャとオーベリー村で購入した資材はおよそ150000センスほどだったので、ここまでの宿代とか食事代を合わせれば、財布の中の残金が三万ちょっとである事は当然であろう。


「まぁ、買っちまったもんは仕方ねぇさ。これからどうするかを考えよう!」


カービィの言葉に、項垂れていた俺は姿勢を正す。


「まず、ここの宿代だけど、八泊朝夕食事付きだから、一人一泊500センス、それが四人で一泊2000センス……。つまり、支払いは16000センス必要なわけだ。それだけなら、昼飯を普通に食ってもなんとか今の所持金で足りるわけだけども……」


「……けども?」


「商船に乗せてもらう金が足りねぇな」


……オーマイガー。

商船に乗るためにここまで来たって言うのに、まさかの商船に乗れないフラグですか?


「商船に乗るのって、いくらくらいかかるの?」


……お願いカービィ。

案外安いってオチにして!!


「船にもよるだろうけど、ピタラス諸島を経由してパーラ・ドット大陸まで運航している船はそうそうないだろうからな……。もしかしたら、足元見られてぼったくられるかも……」


……ま、マジかぁ~。

え、じゃあ何? やっぱ乗れない感じ??

完全に、詰んじゃった感じ???


「それって……。いくらくらいするのかなぁ?」


「おいらがアンロークからここまで乗せて貰った時は、ちょっと豪華な商船で、一部屋借りるのに30000センスだったけど……。どこも経由せずに、三週間ほど船で缶詰状態での値段だったからなぁ~。パーラ・ドット大陸までは、半月、もしくは一ヶ月ほどかかる旅のはずだし……。たぶんだけど、ピタラス諸島の各島々で四泊ずつくらいはするはずなんだ。物資を売ったり買ったりするわけだからな。となると……、ん~……」


おいおいおい、三週間で、しかも一人30000センスだったのなら、明らかに足りないじゃないかよぉっ!?


「うぅぅ~。どうしよぅ~。グレコに怒られるぅ~」


怒った時の、あの恐ろしく怖いグレコの顔が頭に浮かんで、俺はカタカタと前歯を震わせた。


「いや、まぁ、なんとかなると思うぞ?」


……いやいやいや、状況わかってますかカービィさん?

所持金が既に三万ほどだってのに、どうしたらなんとかなるんだよっ!??


「……無理じゃない?」


「なんでだ? 明日の一斉討伐の報酬があるだろう??」


……え? あ?? そっか、なるほど。


「報酬って、お金で貰えるの?」


「ん? うん、そうだぞ。何だと思ってたんだ??」


……いや、一斉討伐に参加する事自体が嫌過ぎて、報酬があるとかないとか、何なのかとか、あんまりちゃんと考えてなかったんだよ。


「たぶん、国営軍直々のクエストだから、かなり報酬は高いはずだ。モントリア公国は貴族の国だからな、財源も潤っているはずだし、国家直属の国営軍のクエストなんだから、それなりの報酬がないと様にならないだろう?」


ほほう、モントリア公国は貴族の国だったのか。

と言うことは、カービィが言うように、報酬は期待出来るわけなんだな?


「どれくらい貰えるのかなぁ?」


「おいらの経験からすると、まず参加者全員に参加報酬が払われるだろう。それプラス、ジャコールの討伐数に応じての個別報酬も払われるはずだ。一匹に付き何センスなのかは、たぶん開始前に発表されるはずだ、士気を高めるためにもな。けど、相手が肉食の獣で、かなり危険度の高いクエストだから、おそらくだけど、個別報酬もなかなかに高額だとおいらは考えてる」


お、おぉ~……

なんだか、何とかなりそうな気がして来たぞ!


「出来れば、あと100000センスくらいは手元にあった方が安心だろうから……。モッモ、明日は死ぬ気で頑張るぞ!」


「おっ、おうっ!」


「そして、とにかく……。お金が残り少ない事は、グレコさんには内緒だぞ! きっと……、いや、絶対に怒られるっ!!」


「もっ、もちろんっ! 口が裂けても言わないっ!!」


こうして、俺とカービィは、残り少ない所持金をグレコにばれない様にする同盟! を組み、明日のプラト・ジャコール一斉討伐に臨むこととなったのだった。






「くはぁ~。癒されるぅ~」


「ジェジェ~♪」


「ゴラ、お前も気持ちいいかい?」


「ジェジェジェ、ジェ~♪」


一人、温かい湯船に浸かって、おっさん臭い声を出す俺。

隣には、桶に入れたお湯に浸かるマンドラゴラのゴラ。

昼間はずっと、俺のズボンのポケットの中でおとなしくしていてくれるので、たまに存在を忘れそうになるのだが……

大丈夫です、ゴラはちゃんと生きていますよ!


夜にゴラを、食事代わりの水に浸してあげるのがここ最近の俺の日課なのだが、お湯はどうなのだろう? とふと思ったので、一緒に風呂場に連れて入ったのだ。

ゴラはお湯でも平気なようで、可愛らしい顔をニパニパとさせながら、気持ち良さそうに浸かっている。

……しかしあれだな、ふやける前に出してやらないとな。


今夜は、先にグレコに入って貰ったので、今はお風呂を独り占めである。

グレコのスタイル抜群な体を拝めるのはたいそう有難い事なのだけれども、拝むだけで何も出来ないのは生殺しもいいところなので、頼むから一人で入らせてくれ! と、俺は懇願したのだった。

逆にカービィは、頼むから一緒に入らせてくれ! と、グレコに土下座までしていたのだが、冗談は顔だけにしなさい、とグレコに言われて、猛烈に凹んでいた。


「湯加減は大丈夫ですかぁ~?」


「あ、はい~、とても気持ち良いです~」


風呂場の外で、薪をくべてくれているリルミユに返事をする俺。

最初は怪しい人かと思ったけど、カービィに話を聞いてからは何とも思わなくなっていた。

……まぁ、予言者にしてはなんかこう、パッとしないって言うか、のんびりしてるなぁ~、とは思うけどね。


「そういえば、明日の一斉討伐に参加されるんですってねぇ? ケロケロ」


「あ、はい。あ、でもあの、お金が無いからとかじゃないですよ、ちゃんと宿代は払いますから!」


「ふふふ、は~い、ケロロン♪」


クスクスと笑うリルミユ。

別にリルミユは、俺が宿代を払えない、なんて事は思ってはいなかっただろうけど……


「モッモさん、一つだけいいですか?」


「え? あ、はい」


「大きな木と木の間を通る時は、足元に注意してくださいね」


「大きな、木? それは、えっと……、どうしてですか?」


「う~ん……。針が刺さる、からですかねぇ~?」


……針? 木の間に、針があるのか??

何かの罠とか???

けど、何のための罠だそれ????


「わ、わかりました、気をつけます」


「は~い、ふふふ♪ 頑張ってくださいね、ケロケロロン♪」


リルミユの言葉の真意は分からなかったが、一応、大きな木の間を通る時には気をつけようかな? と、俺は思うのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る