125:ピョンピョン

「どうしてって、言ったじゃない? 私も旅に出るって」


「い、言ったけど、どうしてこのジャネスコにいるの? もしかして、あなたも商船に乗って他の大陸へ??」


「船? 船なんか乗らないわよ。私はね、ここジャネスコでいろんな経験を積んで、お金を貯めて、いずれはこのモントリア公国の首都であるモントール市に行くわ! あそこならギルドもあるし、様々なジョブが経験できる。より多くの、沢山のクエストをこなして、私は確実に実力をつけるの!!」


「……へ、へ~。なんだか、やる気満々ね」


ふふん♪ といった雰囲気のユティナに対し、グレコは何がなんだがよくわからん、といった表情だ。


ギルド、ジョブ、クエスト……

どれもこれも、なんだか馴染みがあるような無いような、ファンタジーRPGには必須の言葉たちだ。

しかし、あのエルフの村の出身であるグレコが、それを知らなくても仕方あるまい。

問題は、なぜ、同じ村の出身であるユティナが、そんな事を知っているのか、という事だ。

このユティナ、かなりの情報通!?


「全部、ミーが教えたんだ」


ユティナの向かい側に座っているウサギの獣人が、にこやかにそう言った。


「ばっ!? サカピョン、余計な事言わないでよっ!!」


「んん? 何が余計なのかね?? ミーはユーに教えられた事が余計だったかね??」


……この二人、かなり噛み合ってないな。

それに、どうしてちょっぴり欧米っぽいんだろう?


「あの……、ユティナ、そちらの方は?」


遠慮がちに尋ねるグレコ。


「え、あ、あぁ……。イーサン村で出会って、今二人でパーティー組んでるのよ。えっと、名前はサカピョン。ジョブは、ぎんゆ……、なんだっけ??」


「ミーの名はサカティス・クラビィア、旅の吟遊詩人である。ユティナとは、イーサン村の酒場で出会った。酒場の隅で、賊に財布をすられて途方にくれておったのだ。ミーと共に旅をしないかと、ミーが誘った♪」


サカティス・クラビィアと名乗ったウサギの獣人は、自らを吟遊詩人だと言った。

なるほど、だからアコーディオンを持っているわけね。

体の大きさは……、座っているからハッキリとはわからないけど、ユティナやグレコよりかは小さいようだな。


「ちょっと! また余計な事をっ!?」


慌てるユティナ。


賊に財布をすられて酒場で~、なんて、結構やばかったんだねユティナさん。

俺と同じ事を思ったのであろう、グレコの口元が緩む。


「なぁ、誰なんだあいつ? あの、髪の毛はねはねエルフ」


カービィが小声で俺に尋ねる。


「あぁ、グレコと同郷のエルフで、従姉妹なんだって。名前はユティナ。ちょっと……、いやかなり、面倒臭い性格なんだとか……」


「うむ、そのようだな」


おぉギンロ、相手がエルフの女だと言うのに珍しく辛口だな。

エルフの女なら誰でもいいってわけじゃないんだね、ちょっと安心したよ。


「あの、ユティナと一緒にいるやつ。恐らく獣人のラビー族だな。首都であるモントール市に暮らす貴族の半分がラビー族なんだけど……。なんで貴族が田舎娘のエルフと一緒にいるんだ?」


おぉカービィ、詳しい上にちょっぴりユティナをディスったな。

俺たちみんな、気の強い女は苦手なのね……、グレコだけで充分だよね、うん。


「サカティスさん……、なのにどうしてサカピョンなの?」


おぉグレコ、君は疑問を抱く箇所がいつも独特だよね。

多分、あだ名かなんかじゃないのかな?


「あだ名よ、あだ名。歩く時にピョンピョン音がするのよ、だからサカピョン」


ほらね、あだ名でしょ?

てか、足音がピョンピョンって……、見た目通りのウサギなんですね、サカピョンさん。


「ユーたちは、ユティナの友か?」


ニコニコと、穏やかな笑顔で尋ねてきたサカピョンに対し、俺もカービィもギンロも、無表情になる。

友達……、ではないよね絶対に。


「あ、えと……、私は従姉妹です、名前はグレコ。こっちの奴らは私のパーティー仲間で、カービィにギンロにモッモ」


……おい、私のパーティーってなんだよグレコ。

リーダーは俺だぞ、俺のパーティーだぞ?

それに、こっちの奴らって、荒っぽくひとまとめにしやがって……

名前紹介の順番も、なんで俺が最後なんだぁっ!?


「と、とにかくっ! 私はあんたになんか負けないんだからね、グレコ!! 行きましょ、サカピョン」


「もう行くのか? デザートがまだ……」


「いいから早くっ! じゃあね、グレコ!!」


これ以上、双方に余計な事を言われたくなかったのであろうユティナは、デザートが食べられなくてしょんぼりとしたサカピョンと一緒に、足早に店を出て行った。

うん、確かに、サカピョンの足音はピョンピョン鳴ってたな。






「グレコも、なかなかな親族がおったのだな」


「え、何よギンロ、その言い方」


「ん……、気を悪くしたなら謝ろう」


ユティナの態度が、かなり癇に障ったらしいギンロは、グレコにもそんな事を言っていた。

生憎俺はお会計中なので、その会話には入らなかったが。


「さて、腹ごしらえも済んだし、買い物にでも行くかっ!」


「おぉっ! 待ってました!!」


「みんなの新しい装備と、ギンロの剣ね♪」


「うむ、しかし……」


ん? おや、どうしたギンロ??


ギンロは、両手を猫のように丸めて、両目をゴシゴシと擦っている。


「んん? どうしたギンロ?? 潮風が目にきたか???」


「いや、その……。何やら先程から体中が痒くてな……」


体中が痒い……?

俺は、何ともないぞ??


「……ちょいと、おいらにお腹見せてみろ?」


そう言ってカービィは、ギンロのお腹を見ようと、ギンロの下へと回って服をめくる。


「あ! あちゃ~、こりゃ駄目だっ!!」


え? 駄目って??


「おい、急いで宿へ行くぞ!」


「何? ギンロ、どうしたの??」


「たぶんだけど、ジャネロブスターが合わなかったんだな、赤痣が出ている」


あかあざ? 何それ??


ゴシゴシと目をこすり続けるギンロ。


「あぁっ! 擦っちゃ駄目だギンロ!! 我慢だっ!!!」


「うぅ~む……」


ギンロが両目から両手を離すと……


「ひぃっ!?」


「きゃっ!? ギンロ、大丈夫なの!??」


ギンロの両目は、周りが真っ赤に腫れ上がって、白目の部分が充血してこちらも真っ赤になっている。


「あ~やべぇな……。早く宿に行って安静にしないと。ほれ、行くぞっ! おいら、先に行って宿屋の親父に話つけてくるから、グレコとモッモはギンロを連れて追ってきてくれ!!」


走り出すカービィ。

通りを真っ直ぐに、西へと向かって行く。


「ギンロ、歩ける? 肩貸そうか??」


「うむ、すまぬ……、痒い……」


グレコの肩を借りて、弱々しい声を出すギンロ。

心なしか、尻尾と耳がしゅんと垂れ下がっている。


こりゃ、お買い物どころじゃないな。


肩を貸すことも出来ない俺は、せめてカービィを見失わないようにと目で追いながら、ギンロとグレコと一緒に歩き始めた。


……旅はいつでも、危険と隣り合わせなのだ!

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