54:さすが守銭奴

「我らピグモルに、富と繁栄をもたらしてくださる福の神テッチャ様にぃ~! あ~、乾杯~!!」


「カンパーイ!!!」


「福の神テッチャ様ぁっ!!!」


「富と繁栄を我らにぃっ!!!」


テトーンの樹の村では、盛大にテッチャの歓迎会が開かれている。

新しく作られた広場のど真ん中に、大きなキャンプファイアーを築き、酒を片手に、歌って踊って騒ぎまくるピグモルたち。

なんと言うか……、こいつら本当にお気楽だなぁ。


俺は長老に、テッチャの事を、ピグモルの繁栄の為に尽力してくれるドワーフで、しばらくここで暮らすことになった、とだけ説明したのだが……


「福の神テッチャ様を崇めよぉっ!!!」


一番遠くの席でそう叫んでいる長老を見ると、改めて、奴の頭の中はぶっ飛んでいるなと感じた。


「いや~、一時はどうなることかと思ったが……。ここまで歓迎されるとはのぉ。明日から頑張らにゃ!」


そう言ってテッチャは、グイッと酒を煽る。

 その飲みっぷりの良さと、貫禄のある体格を見て、ふと疑問に思う事。


 テッチャって、何歳なんだろう?


 グレコは、あぁ見えて四十歳らしいし……

 俺の前世の記憶では、ドワーフもエルフと同じく架空の存在であり、人とは歳のとり方が違うはずだ。

テッチャは、見た感じ……、完全におっさんだ。

 頭に毛がないし、仕草も喋り方も古臭い。

 そして何より、お腹が出てる。(俺のお腹も出ているけどねっ!)

けどこう、肌艶がいいし、動きはテキパキしていて元気そうだ。

 姿勢は悪く無いし、男臭い脂っぽい匂いはちょっとするけど、加齢臭では無いし……


 いろいろと考えてみるも、答えは勿論分からないので、直接聞いてみる事にした。


「ねぇ、テッチャって、歳はいくつなの? 僕は十五歳」


 一応、先に自分の年齢を伝える俺。

 すると……


「おお、言うとらんかったか? わしは今年で二十五じゃよ」


 おぉっ!? 思ったよりも若いぞっ!!?

 個人的には、グレコと同じくらいかと思ってましたよ!!!

 でも……、じゃあ、かなりの老け顔だな。

 いや、顔というか、存在が老けているって感じだな、ぶふっ。

……それにしても、そう考えるとだな、四十歳のグレコが相当おばさんに感じられるな。


 チラリ……


「ん? 何モッモ?? どうかした??」


「ううん、なんでもな~い♪ グレコ、今日は踊らないの?」


「もちろん踊るわよっ! ひゃっほいっ!!」


は~い、行ってらっしゃい~。


グレコは踊るピグモルの群れの中へ突っ込んで行った。

言葉が通じないというのに、あの楽しみよう、馴染みよう……、さすがです、グレコさん。


「この村はええのう。なぁ~んもないが、温かい村じゃ~」


 楽しげに騒ぐピグモル達の様子を見て、テッチャはにこやかにそう言った。


「でしょ? 自慢の村だよ。みんな、いつも穏やかで、親切で……、良い村なんだ♪ だから……、ほんとは、あんまり変えたくはないんだ。外の物を持ち込んで、便利になって、みんなが助かるのならそれもいいけれど……。みんなの意識っていうか、生活っていうか、そういうのは変えたくない」


生活が便利になると、それはそれで助かるだろう。

けれど、それだけじゃないはずだ。

今までなかった欲とか、業が、みんなの中に生まれれば、これまでの平和な村ではなくなるのでは? という不安が、俺の中にはあった。

漠然としすぎていて、うまく説明できないけど……


「大丈夫じゃよ。その為に、おめぇがいるんじゃろ? モッモ、おめぇさは、皆の事をしっかり考えて、良いと思うものだけを持ち帰ればええ。わしは、その手伝いを少~しするだけじゃ」


 そう言ったテッチャのツルツル頭は、キャンプファイアーの炎に照らされて、テカテカと眩しく輝いている。

 でっぷりとした体に、ドーンと構えたデカい態度、そしてにこやかな笑顔。

 なるほど確かに、長老が言うように、テッチャは福の神っぽいな〜と、俺は思う。


「けどさぁ、テッチャ。本当にいいの? その……、予言者の予言だとはいえ、こんなところで……」


テトーンの樹の村を栄えさせる、というのは、別にテッチャにとっては何の利益もないはずだ。

そんな事して、テッチャは楽しいのだろうか?


「なぁ~に、心配には及ばんよ。わしも、タダでそんな事しようとは思っとらんからの」


 んあ? どういう事??


 すると、今の今まで福の神のような柔和な笑顔を讃えていたテッチャの顔が、突然悪代官のような、悪〜い顔付きになって……


「そこでじゃモッモ、相談なんじゃがな……。取り分は半分ずつでどうじゃ?」


 低くて、小さな声で、ヒソヒソ話を始めるテッチャ。


 と? 取り分??


「えと……、え? 何の取り分??」


 テッチャの突然の変貌ぶりに、ドキドキしながら尋ねる俺。


「そんなもん決まっとろうが、ウルトラマリン・サファイアのじゃよ! ほれ、これ見てみぃ? さっき小川でちぃっと拾ってみたんじゃが、それはそれは質がええ! 粒もでかいっ!! こりゃ~、磨けば化けるぞ!??」


あ……、あ~、なるほどその話か!

 すっかり忘れていたというか、ちゃんと考えていなかったよ。

 小川に落ちてるウルトラマリン・サファイアをテッチャが加工して売り捌き、俺とグレコの旅の資金と村の繁栄資金に充てる……、と言う話だったんだ。

 そりゃそうだよね、タダで村の繁栄を手伝うなんて、ボランティアにも程があるものね!!

 テッチャに取り分があるのは、当たり前の事だよな!!!


「うん、いいよ! テッチャだって仕事があるもんね!!」


 すぐさま快諾する俺。


「お!? 良いかのっ!!? いや〜、そうなんじゃよっ! 採掘ギルドのゴッド級マスターの資格を維持しようとするとな、やはりそれなりの実績が必要なんじゃて!! それに、こんなに質のいいウルトラマリン・サファイアは世界中探してもここにしかないじゃろう。こりゃもう、大儲けの匂いがプンプンじゃよっ!!! ガハハハッ!!!!」


ふふふ、さすが守銭奴、ぬかりないな……


「けど、他の採掘マスターに狙われたりしないかなぁ? そんなに珍しいものを市場に出して、ここにあるって分かったら……。みんな採りにくるんじゃないの??」


今の所、俺が一番心配しているのはそこだ。

ウルトラマリン・サファイアの出所を嗅ぎ付けて、他のドワーフ、強いては他の種族の者達が、ここへやって来やしないだろうか?

まぁ、ガディスがいるから、そうそうピグモルたちが危険に晒される事はないとは思うけど……


「その心配は無用じゃよ、モッモ。わしはここをばらさんし、例えばれても、この幻獣の森に挑もうなどという骨のあるドワーフは、他にはおらん!」


……え~ほんとかなぁ??


「なんじゃ? 疑っているのか?? まぁそう心配するな、モッモよ。次にわしが採掘ギルドに顔を出した時に、幻獣の森には恐ろしいフェンリルがおったと言うておこう。さすがにそれなら、誰も来ないじゃろうて、な?」


……うん、まぁ、それならいいかな?


「分かった。僕、テッチャの言う事を信じるよ」


 とりあえず、一度やってみよう。

 もし問題が起きたら、その時に対処すればいい。

 テッチャは悪い奴じゃ無さそうだし……、まぁ、ちょっとお金にはがめつそうだけど、きっと大丈夫だろう!


「そうか! そうかそうか!! 良かった!!! ではモッモよ、盃を交わすぞ。友として。そして、仲間としての盃じゃっ!!!!」


「うんっ! これからよろしくね!!」


俺とテッチャは、改めて乾杯した。


「ピグモルの繁栄に! この出会いに、乾杯っ!!」


「ガハハハッ!!!」


こうして、ドワーフのテッチャが、俺の仲間になったのだった!


チャラララ~ン♪

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