38:お腹が痛くなぁ〜れっ!!
「テッチャさん、よ~く聞いてください! 僕、実は……、透明になれるんですっ!!」
「……ほぉ~?」
意を決して話した俺に対し、かなり白けた表情で声を出したテッチャ。
「ほっ! 本当なんです!! このローブ、隠れ身のローブって言って、裏返して着ると、体が透明になるんです!!!」
「……本当かのぉ?」
笑いもせず、俺のローブに疑いの目を向けるテッチャ。
「本当なんですってば! いいですか? よぉ~く、見ててくださいよ!?」
サッと、隠れ身のローブを裏返して着る俺。
すぐさま俺の体は、ローブの効果でス~っと背景に同化して消えた。
「おっ!? おおおっ!!? こりゃ~おったまげたっ!!!」
両手を斜め上に上げた、変なおったまげポーズで驚くテッチャ。
「ねっ! 言ったでしょっ!?」
テッチャの反応に満足した俺は、満面の笑みで一度ローブを脱いだ。
「僕は今から、これを着て、牢屋番の目を欺き、自分の荷物を取りに行きます。僕の荷物の中には、あいつをやっつけられるものがあるんです! あいつをやっつけて、鍵を奪ってきますから……。テッチャさん、逃げる準備をしておいてください!!」
鼻息荒く、宣言する俺。
「お、おぉ……」
ローブの効果に驚いたテッチャは生返事だが、俺は今のところテンションマックスだ!
前世の記憶の中に、こんなものがある。
とあるファンタジー映画の中で、エルフに捕らえられた主人公が、脱獄をするシーンだ。
その映画では、エルフのお姫様が脱獄の為に力を貸してくれる、というストーリーだったが……
生憎、俺にはエルフのお姫様が助けに来てくれる展開はなかったようだ。
だが、俺には神様より授かりし、隠れ身のローブがあるのだっ!
誰の助けも借りず、自らの力で、この窮地を抜け出してみせるぜっ!!
はっはっはっはっはっ!!!
俺は再度、隠れ身のローブを裏返し、身を包む。
透明になった俺は、また首を九十度横にして、鉄格子の間をするりとすり抜けた。
牢屋の中のテッチャは、俺を探してキョロキョロしている。
うん、ちゃんと姿は消せているようだな……、行くぞっ!
抜き足、差し足、忍び足……、こっそり歩くのは得意である。
カツカツカツと、エルフの牢屋番が歩いてきたが、俺の存在には気付かぬままに、その横を歩いて過ぎ去っていった。
急ごう、俺が牢屋にいない事に気付かれる前に、万呪の枝を取り返さなくちゃ!
しばらく通路を行くと、小部屋のような場所に着いた。
数本の松明が壁に掛けられているこの場所に、俺の鞄と万呪の枝を発見!
サッと鞄を背負い、万呪の枝を手にとる俺。
さ~て……、呪いのお時間ですよぉっ!
きひひひひっ!!
カツカツカツ、と、通路を歩く牢屋番。
綺麗なお顔はとても凛々しく、長身足長でスタイルも抜群だ。
ふっ、馬鹿め……、俺の事を「低俗な獣」などと罵らなければ、その美貌は守られたろうに……
歩的な笑みをこぼしながら、万呪の枝をギュッと握り締める俺。
果たして使い方が合っているのか、間違っているのかはわからないが、俺はそ~っと、万呪の枝の先を、エルフの牢屋番に向けた。
よく覚えていないけど、ムーグルのゲーラの時は、目を閉じてぶんぶん振り回している間に、勝手に丸裸になる呪いがかかっていたようだ。
つまり、難しい呪文とか、作法とか、そういったものは必要無いということである。
じゃあ逆に、必要なものは何か……?
ゲーラの時、俺は何を考えていた??
……うむ、もちろん思い出せない。
思い出せないが、何か特別な事をした記憶も無い。
だったら、もしかして、俺が何かを心に思うだけで、相手に呪いがかかるんじゃないだろうか???
いろいろと考えた末に俺は、心の中でこう唱えた。
「そのイケメンが涙でぐっちゃぐちゃになるくらい、お腹が痛くなぁ~れっ!」
あまりにも馬鹿らしく、あまりにもちんけな仕返しだなと自分では思ったが……
「うっ!? くぅっ!?? あぁ……、あぁぁぁぁぁっ!??」
両手で腹部を強く押さえて、体をくの字に曲げ、#悶__もだ__#えるエルフの男。
見る見るうちに、そのハンサムなお顔が醜く歪み、大粒の涙を流し始めた。
そして……
「もう……、もっ、漏れるぅ~!?!?」
悲痛な叫び声を上げたエルフの男は、手に持った松明と牢屋の鍵を地面にほっぽり出して、どこぞへ全速力で駆けて行った。
思っていた以上に上手くいき、俺はしたり顔でニヤリと笑った。
「テッチャさん! お待たせしましたっ!!」
牢屋の鍵を開けて、中からテッチャを救出する俺。
「何をどうしたんか知らんが、こりゃ~たまげたっ!」
驚くツルンツルンのテッチャ。
松明の明かりを反射して、そのスキンヘッドが神々しいまでに光り輝く。
テッチャも荷物を奪われていたらしく、通路の先の小部屋を漁る。
先ほどまでは腰巻一丁のテッチャだったが、奪われていた衣服を身に着けると、なるほどこれがドワーフか! という格好になった。
焦げ茶色の肌によく似合う、派手目のオレンジ色の服には幾何学模様の刺繍が施され、頭には同じ柄のトルコ帽を被っている。
腰には採掘の際に使うのであろう道具を沢山ぶら下げたベルトをつけ、最後に、何やらたいそう光り輝く、ゴールドカードのような名札を首から下げた。
名札には、《ドワーフ鍛冶職人協会・採掘ギルド・ゴッド級マスター:テッチャ・ベナグフ・デタラッタ》と書かれている。
ゴッド級って……、すげぇなおい。
どっこいしょっ! という掛け声と共に背負った荷物はとても重そうで、なんだか俺の異次元鞄がズルしているかのようにも思えてしまった。
「ありがとよ、モッモ。この恩は忘れんぞ」
にっこりと笑うテッチャ。
「時におめぇ、ここを出たらどうするんじゃ? 村に帰るのか??」
ん~、そうしたいのは山々なんだけどぉ……
「実は、仲間のエルフとはぐれたままなんだ……。ちょっと、探してみようと思っています」
グレコはエルフだし、なんだかここでは身分が高そうだったから心配はいらないと思うけど、せっかく一緒に旅するって決めたんだから、一人でここを去るわけにはいかないよな。
「そうか……、じゃあ、わしは一足先にここを出る。また会おうの!」
そう言ってテッチャは、俺と固く握手をした。
この時不思議と、握った職人らしいゴツゴツとしたその手に、何故だかまたすぐ会える気がした。
小部屋の出口をそっと開き、左右をこそこそと確認してから、テッチャは外へ出て行った。
一人取り残された俺は、ふ~んと鼻から息を吐き、そして……
「さ~て……、僕も行こう! グレコを探しにっ!!」
隠れ身のローブを身に纏い、俺も地下牢を後にした。
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