2:調子に乗っていたツケが回ってきたようだ

「聖地とは即ち、神の御霊がおわすところ。お前が生まれてきた理由も自ずとわかるじゃろう」


 そんなぁ……、生まれてきた理由とかどうでもいいよぉ~。


「案ずるでない、モッモよ。お前はこの世に生まれ落ちし時から今日に至るまで、長老のわしとて知らぬ知識と技術を持ち合わせ、皆を導いてきたではないか。それ即ち、神の思し召し。神の元へはせ参じるがための力じゃて」


 い、いやぁ~……

 いろいろ知っていたのは、前世が人間であったからでして、そのぉ~……


「長老様! モッモ一人では危険です!! 我々兄弟も共に行きます!」


 おお……、さすが俺の三つ子の兄貴、コッコだ。

 長男ゆえに責任感がある。


「僕もです! 兄さんの力になります!!」


 お前もか、弟のトットよ。

 負けん気の強い三男ゆえか?


「ならぬ! これは神に選ばれしモッモにしか許されぬことなのじゃ!!」


 おぉおぉ長老様よ、そんなに大声出しちゃ、頭の血管切れますよぉ~?


「しかし!」


「長老様! どうかっ!!」


 コッコとトットの言葉、俺の事を心底心配してくれるその優しさに、俺は強く胸を打たれた。

 が、しかし……


「いや、僕一人で行きます。これは、神に選ばれし僕に課せられた使命……。明日、一人で、北の山々にある聖地へと旅立ちます!」


 キリっとした眼差しで、長老を見据える俺。


「よくぞ言った、モッモよ! 今宵は宴じゃ!!」


「モッモ……、なんて逞しい! お前は自慢の弟だぞっ!!」


「モッモ兄ちゃん!」


 感動する長老、コッコ、トットを前に、俺は温かい微笑みを称える。

 だけど内心では……


 北の山々の聖地ぃ~!?

 どこだよそれ、知らねぇよっ!! 

 コッコとトットがついてくるなど言語道断!!!

 こいつら俺より体力無いくせに、ついて来たって何の役にも立たないに決まってる!!!!

 それどころか、足手まといとなるに違いないぜっ!!!!!


 と、俺の心の邪悪な部分が叫んでいた。







 長老の家を出て、俺は一人、村の近くにある小川に向かう。

 穏やかなせせらぎの音を聞きながら、これまでの行いを悔いていた。


 俺がこの世に生まれたのは十五年前の今日。

 三つ子の真ん中として生まれた俺は、出生直後は仮死状態だったらしい。

 元気に産声を上げたコッコとトット、それに対して息すらしていない俺に、母ちゃんのキノンは死を覚悟していた。

 しかし、諦めの悪い父ちゃんダッダが、根気強く俺をさすって温めてくれたおかげで、俺はなんとか命を繋いだ。

 コッコとトットに比べて成長が芳しくなかった俺だが、仮死状態から生き返った事を受け、村では奇跡の子と称された。


 そんな俺だったが、もちろん最初から意識があった。

 それに、記憶こそ無かったが、人間だった頃の知識というか、人間並の知恵は残っていた。


 生後半年が過ぎた頃、なんだか喋れる気がして、母ちゃんの乳をたらふく飲んだ後、こう言ってみたんだ。


「おいちかった~」


 その時の母ちゃんの顔ったらもう……、今思い出しても吹き出しそうなくらいにびっくりしてた。

 いや、あれは驚いていたというよりかは、ちょっと気味悪がってたような気もするが……

 とにかく、生後半年で言葉を喋り始めた俺のことを、大人達は神童だともてはやし、村は大騒ぎとなった。


 2歳になった頃、あまりにも生活が不便だと感じた俺は、家の建築場所を初めとし、様々な生活の改善点を大人たちに伝えた。

 畑の耕し方に始まり、食料の保存方法、効率の良い釣りの仕方、薄い葉の繊維を使って紐を作ったり、籠を編んだり家具を作ったり……

 とまぁ、おおよそ普通の子どもとは思えない能力を発揮してしまったのだ。


 極めつけは、あの暴露だ。


「どうしてモッモは、いろんな事を知っているんだい?」


 母ちゃんが何気なく聞いた一言に、俺はこう言ってしまったんだ。


「えっとねぇ……、生まれる前に神様が教えてくれたんだよ!」


 その言葉をもって俺は神の子となり、今日に至るまで、村ぐるみで大切に大切に育てられたのでした。







 あぁ……、なんてこった……

 調子に乗っていたツケが回ってきたようだ。

 これまで良かれと思って、村を発展させてきたわけだが、まさかそのせいで、俺の気楽なハッピーライフに終わりが告げられようとは……


 小川の水面にうつる、風にそよぐ黄土色の毛並みを見つめ、俺は不敵に笑うしかなかった。

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