第18話 ウォッチ教会

 私とフルーさんは路地裏に身を潜めていました。現在私たちは衛兵に追われています。どうやら衛兵隊はフルーさんをアンデッドとして殺処分するつもりのようです。


 衛兵が介入してきた経緯はわかりませんが、フルーさんの案件は冒険者ギルドが請け負ったものです。フルーさんの処置を私が下すまでは、私はフルーさんの身柄を守ることができます。


「一体どうしてこんなことになったのでしょう。私がアンデッドだなんて……」


 フルーさんが困惑しています。こうなってしまった以上、私はフルーさんにすべてを話すことにしました。私の話をフルーさんは信じられないといった顔で聞いていましたが、メガネを貸して自身を鑑定してもらった結果、納得せざるを得なくなったようです。


「この国の法律では死者は物扱いです。市民を守るための法律もあなたには適応されません」

「そんな……、いったいどうしたらいいというのですか?」

「そこでです。フルーさん、亡命する気はありませんか」




 それから数十分後、私とフルーさんは物陰からある建物を見ていました。


「あの教会に逃げ込めれば私達の勝ちです。衛兵も手出しできません」

「門前の通りさえ抜けられればいいということですね」

「はい」


 フルーさんは亡命を選択しました。ですので私はその手助けをすることにしました。冒険者ギルドとしての決定です。


 私達が見ている教会は最近ヨハンで建てられたもので、世間一般に信仰されている宗教、ウォッチ教の教会です。そしてウォッチ教の総本山である宗教国家、ウォッチ教国の大使館でもあります。


 奴隷制度の廃止や差別の撤回、民主主義など、政治経済を崩壊させかねない非常識な政策を打ち出し他国にも追従を呼びかける頭のおかしい国ですが、事情を話せば亡命を認めてくれるはずです。あの国であればフルーさんも受け入れられるでしょう。



「衛兵の姿も見えません。行きましょう」


 私たちは教会に向かって歩き出しました。なるべく一般人に紛れるように進みます。


「マリーンさん、前に衛兵がいます!」

「まだ見つかっていません。このままやり過ごしましょう」


 教会まであと100メートルほどです。私達は目立たないように歩き続けます。そして衛兵と行き違いました。


 教会まであと80メートル。


「そこの二人組、こちらを向きなさい」


 後ろから声がかかりました。先ほどの衛兵です。ここまできてついに見つかってしまいました。後ろから衛兵が近づいてくるのを感じます。


「フルーさん走って!」

「は、はい!」


 私たちは全力で走りだしました。


「いたぞー! 教会に逃げ込む気だー!」


 衛兵が追いかけてきます。声を聞いて周りからも衛兵が集まっできました。このままでは捕まってしまいます。


「足止めします。フルーさんは行ってください!」


 私は鞄からロープを取り出しました。もともとはフルーさんが危険だった場合に縛るため用意したものです。ロープは衛兵の一人に襲い掛かると拘束しました。付与したスキル「拘束」の効果です。まず一人。


 フルーさんの前に衛兵が三人回り込みました。私はスリングショットで土属性魔石を衛兵の足元に撃ち込みました。付与したスキル「土魔法」によって落とし穴が生まれ、三人は落とし穴に落ちます。これで四人。


 衛兵が警棒で背後から殴り掛かってきました。私は鉈でそれを防ぎ、反撃します。首に峰打ちが決まりました。鉈に付与したスキル「剣術」の効果です。五人目。


「やんちゃはそれまでだ、女」


 突如私の全身を衝撃が襲いました。おそらく風魔法で攻撃されたのでしょう。衝撃波で私の体は吹き飛ばされました。


 一人の衛兵がすごい速度でフルーさんを追います。私を攻撃した人でしょう。風魔法を推進力に使い、みるみる距離を縮めます。あれでは教会につく前にタッチの差で追いつかれてしまいます。


 突如地面が隆起し、風使いの衛兵を阻みました。先ほど地面に撃ち込んだ魔石の仕業のようです。風使いは急ブレーキを余儀なくし、フルーさんは教会に逃げ込むことができたのでした。

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