第22話 魔王様にお祈りを

  無事に勇者共に殺害された様に世間に見せた私


「身元が分かるような物は見つかったか?」


「いいや、さっぱりだ。身なりからどこぞの貴族かと思ったが家系を示す紋章すら持ってない」


 今、私の身元を調べようと医師による検死が行われ、衛兵の調査官と医者が好きかって話しているところだ


「逃げた海賊の仲間じゃないのか? 昨日の晩に仲良く飲んでいた所を目撃されている、内輪もめで殺されたか・・・」


「こんな日に焼けてない白い肌で海賊か、あり得んね、手にタコすらないじゃないか。足も酷使した様子無し、過度の乗馬によるの脚の変形も無し、目撃証言だと旅人って話じゃないか、おかしいだろ」


「馬車を所有していた形跡も御者が居た形勢も無し・・・・。駅馬車を乗り継いで旅をしていた?」


「手持ちの現金はそれだけ、金が足らんし銀行から下ろすにしても口座の証文を持っていない、頼れる知人が居たとしてもそう言った人物が確認できなかったんだろ」


「証文を奪われた可能性も有りか…、辺りの銀行に再度警告するか、逃走犯が利用するかもしれん、死体はしばらく保管かな」


「旅の必需品も一切持っていないのも気がかりだ。本当に何も無くてきみが悪いよこの被害者、私としてはさっさと埋めて欲しいね」


 ふ、例え死していたとしてもこの魔王に恐れをなすか。いいだろう恐れついでにそのまま敬意を払え、唾を吐いたら殺すがな


「あ!男娼と言う線はどうだ?」


「ほう、身なりが良いのは商売道具だからか」


「ああ、金持ち御用達の男娼なら、世間体から証言を得られないのも説明がつく」


「なるほどな、さっそくケツを調べてみよう」


 おい・・・


            {あれから1週間後}



「なんか、最近先生色っぽく感じないか?」


「そうなんだよな男なのに…、調査官の男もそうなんだよな」


 私が男性魅了チャーム♂の呪いをかけてやったからな、余を男娼扱いした報いを受けるが良い


「あの調査官さんはもうデキてるらしいぜ」


「うわ、ほんとかよ」


 どうやら片方はまんざらでもなかったらしい、痴情のもつれから後ろから刺される方に期待しよう、もちろん刃物でだ


「そんな事より、さっさと埋めますかね」


「そうだな、ゆっくり下ろすぞ」


 う~む、無縁仏にしてはなかなか良い棺桶を用意したではないか。私の所持金から引かれたのか?


「神父様、頼みます」


「はい、では皆さんも一緒に祈りましょう」


 神父? はて、この気配は以前に感じた事が有るがどこだったか・・・


「神よ、この孤独な者が魔に惑わされる事なく、安らかに眠りにつけるようお導きください。世に光の栄光があらんことを」


「「世に光の栄光があらんことを」」


 この程度の祝福など道と言う事は無いが、この焼けつくような感覚は・・・、こやつ何者だ?


             ・

             ・

             ・



「もう頃合いか・・・」

 

 私は深夜になるのを待ち、墓から這い出た。そこには…


「お待ちしていましたよ・・・、遅いお目覚めで」


 …気配を消し待ち構えていた神父の姿があった


「ほう、やはりただ者では無いか。貴様、雰囲気が大分変ったな」


「はい、職業柄ゆえ仕方がなく。この日をどれくらい待ちわびたことか生ける死魔王よ」


「私は待ってはいないがな、不死の勇者よ。貴様が聖職者とわな」


「ふふ、外は肌寒いでしょう。中でお話しませんか、薬草茶ハーブティでよろしければお茶も有ります」


 そう優しい笑みを浮かべながら誘う彼の姿に以前の彼の姿を思い出すが、あまりにも違い過ぎた。

               

              ・

              ・

              ・


 以前、たれと初めて会ったのは私が拷問に興じていた頃だ


「ふむ、もう死んだか」


「魔王様、生きの良い人間を捕らえました」


 そう言って部下が連れて来たのは、金属の拘束具に猿ぐつわを噛まされた人間だった


「グルル!グルルル!」


 その彼が人とは思えぬ呻き声を上げ、己が傷つくのも顧みずもがき続けていた。拘束具で肉を切り裂き血を流す姿はまるで死を望んでいる様、だがその目は紛れまなく生き抜き何かを成そうとする者の目だった


「面白い・・・」


 死と生の渇望、相反する感情を秘めた狂気を覗こうと、余は彼をゆっくりと引き裂く


「ウググ!」


 傷つけては癒し、時には優しく愛でながら拷問を楽しんでいた余であったが、やがてそれも飽き


「つまらんな・・・」


 余は彼をトゲをしきつめた淑女の姿をかたどった錆鉄の箱に彼を入れ、魔力で焼き払った


「ウグゥゥゥゥゥッッ・・・・・」


 彼の身体は箱と共に焼かれ、焼け曲がった箱の隙間から見えた彼は、口の拘束具が溶け出し、溶鉄を口から吐き出しながら静かに女の名前を口にした


「ジィ・・・ナ…ァ・・・」


 彼の身体は鉄と混じり合い溶けて朽ち果てたのを確かに見届けた。だが・・・


「魔王様!」


 確かに殺したはずのその男が生きているとの知らせを部下から聞き、余はその情報が確かであるか確かめにおもむいた


「遅かったか・・・」


 余が駆けつけた頃には、彼は既に魔族との疑いで火あぶりされてしまっていた。だがそこには・・・


「まったく、酷いじゃあないか・・・」


 余は教会の窓の隙間から焼かれる自分の姿を一瞥してからさて行く彼をの姿を確かに見た


「影武者か?」


 しかしその後も彼が死んだとの知らせを何度も聞くことになる


               ・

               ・

               ・


  不死の勇者、死しても教会で復活する死を超越した存在。私の知っている限りでも魔族との戦いで684回、人間の争いに巻き込まれ56回、魔の者と疑われ火刑に処される事13回、この世に教会がある限り生き続ける神に呪わ祝福されし者。その彼が私を茶に誘うだと? まったくどういった魂胆やら


「ああ、いただこう。たまには聖別された茶葉のピリピリとした刺激を味わうのも悪くない」


 聖者の勇者か、仮に勇聖者ゆうせいじゃとでも呼ぶか?

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