第14話 世間の変化に振り回されて、時には振り回す
私は海賊の大将が拡声器で演説しているのを眺めていると
「我々はこの海を長い間守って来た! だが、ここの国は一方的に契約を解除と!交易の無期限停止を宣告して来た! よってその報復として・・・」
勇者がこちらを向いて聞いてきた
「契約? 国が海賊とか?」
「海上戦力の人員の訓練や装備の維持には金がかかる、よって、ある程度の犯罪行為には目をつむる事を条件に海賊と契約して海域の防衛を任せる国は多い。知らなかったのか勇者?」
「ああ、そんな事になってたのか・・・・。どうりで海岸とか島によった時に海軍より海賊に追い回される事が多かったわけだな。で、その契約が解除されたって事は・・・」
「海賊を生かすメリットよりデメリットが上回ったと言う事であろうな。これも時代の流れか」
「俺と同じ境遇って事か・・・・」
勇者が面白い事をぬかしたので訂正しておいた
「いや、ついさっきまで公に認められていた海賊の方が、用済みになり職にあぶれ追われる身になった貴様よりまともだと思うぞ。人類基準で考えても魔族基準で考えてもな」
「うるせえ!!」
勇者と雑談していると、不意に殺気を向けられた
「・・・占拠している間、民間人は避難していろ。ただし!そこの血まみれの男と黒衣の女は別だ!」
「ほう…」
「は?」
海賊は続けて私達に言い放った
「貴様らには話がある! さては国が雇った勇者だな!」
なにやら勘違いしているようなので、こちらも拡声器を取り出して反論してみる事にした
「傭兵ではない! 私はただの通りすがりだ!」
「キーーーーン……」
拡声器を使ったら海が荒れ、船が3隻沈んでしまった。どうやら魔界の演説用の高出力の物と間違えてしまった様だ。気を取り直して低出力の物と取り変えた
「失礼、間違えてしまった・・・。テステス…」
「貴様ふざけるな!」
彼女はお怒りになってしまった様だ。さっさとなだめなければ
「先ほどは装備の不備により失礼した。”私は”ただの旅行客、諸君らに反撃したのは不意の砲撃から身を守る為、どうか見逃していただきたい」
「今更遅い! 通りすがりだと?何の目的もなく観光地でもない港町に旅行? 包み隠さず目的を話せ!」
「たしかに、別の目的が無いと言えば嘘になる…」
私はこっちの勇者を指差して宣言した
「実は私はこの者にストーカー被害にあっていてな! 女海賊がこの辺りを縄張りにしていると聞き、あわよくば保護してもらおうともくろんでいたのだ!」
「ちょっ!? バルド!何のつもりだ!!」
勇者が組み付いて来たので程よく抵抗してみせた
「嘘は言っていないッッ! 毒には毒を、他の勇者が取り仕切る海賊の縄張りを潜り抜けてまで追っては来れまい!」
「お前そんな目的もあったのか!? どこまで根暗なんだお前! さては俺がひと騒動起こしたら高みの見物する気だったな!」
その通りだった、意外と勘が良い。私は拡声器の方を向き海賊に次の一手を打った
「この男は! 私が山賊や傭兵など頼れそうな人間を行く先々で潰し、略奪品を貢ぎ! さらに用心棒代を要求して来たのだ!私の…身体で!」
「ちょ!?!? デタラメだ!これはデタラメだからな!!」
勇者も拡声器に向かって海賊に弁解し始める。私の読みが正しければ海賊から反応があるはずだ
「なにぃ! さては最近この海域を荒らしていたのは貴様だな!! 我々の装備を強奪し、軍に安く売り払っていたのは貴様かぁ!!!」
「あ・・・‥…、そう言う事?」
そう言う事だ、勇者も気づいた様だな。この勇者、私の先回りをし山賊などを潰しまわっていた。恐らく海賊にも手を出していたのだろう
「やはりな・・・」
そして安く装備品が出回る様になり、さらに恐れをなした一部の者が海賊から足を洗って、自身の能力を売り込み正規軍に志願。海の軍備が急激に増強された事により国はもう海賊は不要と判断、そして急な決定に面食らった海賊が行動を起こしたと
「つまり、この騒ぎって・・・・、俺のせい?」
「疑う余地もなく、貴様のせいだエルウッド」
私は勇者の問いにそう宣言し、しばしの沈黙が訪れた。そしてその沈黙を破る海賊の怒号が鳴り響いた
「今すぐその不届き者を引き渡せ!!!!」
待ってました言わんばかりの勢いで私は勇者をひっつかんだ
「うむ!よろこんで!」
「お、おい待て!」
「大人しくしていろ! 勇者同士仲良く遊んで来るがいい!!」
私は勇者を海賊に向かって投げ飛ばした
「うわああああぁぁぁぁぁ・・・・‥‥……」
「ドン!」 「ドン!」
「ドン!」 「ドン!」
「ドン!」
勇者トーマス・エルウッドは、無防備な空中で成す統べなく海賊達の砲撃にあい、海面に叩きつけられたのであった
「さてと」
私は空飛ぶ勇者エルウッドが無事に海賊共に海のモクズにされた後、用が済んだので帰ろうとしたのだが・・・
「タン!」
「おっと」
・・・逃がさんと言わんばかりにあの女海賊の狙撃を受けた。まったく、あっちはあっちで鬱陶しい勇者だ
「動くんじゃない!」
「女性の後ろを取るのがお好みなのかな、女勇者さんは」
「前からが良いのかい? ならゆっくりとこっちを向きな。それとも攻められるより攻める方がお好み?」
「うーむ、どっちもイケる口なのだが、いずれにしても主導権は握る質だ」
「あら気が合うね、だから余計に仲良くはなれなそうだけど」
「同感だ」
後ろを向くと女勇者は私の顔を見みながら首を捻った。気づかれたか?
「どうもアンタの顔は見た事あるだよね・・・」
「人違いであろう、長らく隠居している身だ」
「魔族から足を洗ったと?」
「まさかまさか、魔族とは種族、止めようと思って止められる者ではあるまい」
「そこは否定しなんだね。人違いでも見逃すわけにはいかなくなったよ」
まったく、勇者という者は面倒だ
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