世捨て魔王と世に捨てられた勇者達は互いに何を見る？

第12話 勇者に魔女王様のお情けを

　魔王と雑談をしている中に注文した料理が届いたんだが・・・、まあ、俺のも

「ふむ、まあまあだな、このクオリティにしては」

　俺の事は気にせず当たり前の様に食事をしている魔王を…、隠居してると言っているから元魔王か？　それはともかく俺はヤツを睨みつけながら聞いた。先ほど奴が言ったように根本から別の生き物、些細なすれ違いが有るのかもしれないからな。一応聞いておかないと

「なあバルト、一応聞くが…」

「なんだエルウッド」

　そう、俺の疑問はシンプルだ

「そのステーキ牛肉だよな？　普通に」

「人肉だとでも？　人間の店だぞここは」

　どうやらここは隠れた魔物の店と言う訳ではない様だ。しかし…

「お前なら裏から手を回しそうだからな」

「まあ、今のご時世でも場所によっては食べられない事もないのだが…、今回は普通にありものだ。間違いなく牛だよこの味は」

　ああ、やっぱり食うのか。疑問はそこではないが

「今回は、かぁ…。魔族は人を食うってホントなんだな、侵攻してきたのもそれが理由か？」

「食う為に？　間違いではないが単に狩るのが楽しいだけさ、人も娯楽で獣を殺すだろう。まあ別の思惑があって行動している者もいたが、ただあの時は規模が大きかっただけだ」

「ほぉ…、で？」

「それに人間を食したいだけなら家畜化してやればいい、この人類が自称する高級霜降り牛の様に美味しく育ててな、ハグ…」

　そう言って魔王はステーキを口に運んだ。それを見て確信したよ、うん

「そうかそうかぁ、じゃあコレはアレだ…」

「ん？」

　俺は怒りを抑え武者震いをしていたが、今その怒りを解き放ち言った

「俺の飯がな～んか、おかしいのは人間用の飯がコレしかないんじゃなく、単なる俺に対する嫌がらせか！」

「なにを騒いでいる。冷めないうちに…、冷める事もないがさっさと食べたらどうだ」

「なんでお前がステーキで俺が干し肉（ジャーキー）なんだよ！」

　なんか流されて注文任せたらこれだよ！　俺の口が挟まないとうに手早く済ませてた時に怪しいと気づけばよかった

「貴様にとって食事は単なる日々の糧では無かったのか？」

「こんなあからさまに見せつけられたら話は別だ！」

「面倒だな・・・。ではこの肉の油を少しその干し肉に垂らしてやろうか？　粗悪な肉でも良い肉汁を付ければ多少美味くなるらしいぞ」

「マジか！？」

　魔王はステーキを切ったナイフを勇者の干し肉の上に持って行き・・・

「・・・・・」

「・・・・・」

　・・・・今まさに肉汁がしたたり落ちようとしたその時

「はむ、ちゅぱ、ぺろ…」

　ナイフを戻して肉汁を綺麗に舐めとってしまった

「おいバルド！！」

「やろうかと言っても返事をしなかったではないか。はむ…」

「もういい！お前に注文を任せちまったのが間違いだった。すみませーん！注文！」

　そうだ自分で注文すればいい、そう思い俺は店員を呼んだ

「はいはーい、ご注文は」

「俺にもステーキを頼む」

「ステーキの良いですが、ここは魚が名物ですよ」

　そういやそうか、バルドはもしかして魚がダメなのか？　じゃあ魚だ、だがステーキも捨てがたい、こういう選択を迫られたら男がとるべき行動はただ一つ

「それもそうか、港町なんだし。じゃあオススメの魚料理も追加で・・・」

　そう、両方頼めばいいのだ。幸い今の俺は腹が減って・・・・

「バゴォン！」

　　　　「グシャアアア！」

　・・・・突如、店の壁を突き破った砲弾で店員はトマトの様に弾けとんだ

「うわっわわわわ！！」

　　「きゃあああああ！！」

　もう、お腹空いてるのに思考が付いていけない。今の俺に認識できる事は周りの人間共が騒ぎ始め、大砲の音が次々となり響き外も同じような状態だろうと言う事だ・・・。ん？大砲だと？？

「なんだぁ！？」

「ふぅ、騒々しい花火だ」

　魔王はすました顔で食事をしている。状況理解してんのか？

「大砲だろ！」

「そんな事は分かっている。ところでその顔にこびりついた肉片は食わんのか？」

　魔王の言葉に俺は、顔についた店員の肉片を剥がし地面に叩きつけながら怒鳴った

「こんなミンチ食おうってのか！？　あさましい！」

「冗談に決まっているだろう、拾い食いをする趣味など無い。さて、食事はここまでにしてこの祭りを見物しようではないか」

　魔王はナフキンで口を拭き、立ち上がって後ろを向いた。やっと状況確認をする気になったか。・・・でもその前に

「へいへい、お供しますよっと。ハグッ・・・」

　俺はフォークを魔王が食べ残したステーキに突き立て、一口でほうばっり味見した。残すのももったいないしな

「まったく、あさましいのはどっちなのやら・・・・」

「うるせえ、モグモグ…」

　俺がステーキを飲み込むだころ、魔王は外の様子をうかがおうと、扉を開けた

「ビュウウウウウウウンッッ」

　すると魔王にに向かって砲弾が飛んできたので、魔王の前に飛び出して前蹴りの要領で足裏で砲弾を受け止めた

「しぇい！」

　　　　「ゴンッ」

　だが感触が妙で、俺はとんでもない物を足で受け止めた事に気付いた

「ッ！？炸裂弾！！」

　俺は砲弾が地面に落ちる寸前で足の甲で蹴り上げ両手で掴み、砲弾をクルクル回して急いで信管を探し出した

「あった！　この！」

　そしてダガーを隙間にねじ込んで信管を引っこ抜いた。その様子を見て魔王がニヤつきながら話し掛けてきた

「良い手際だな」

「ぜぇぜぇ…、そいつはどうも。だが発火のタイミングが遅い、不発弾だったのかもな、じゃなきゃドカンだ」

「私が不発にさせたんだ」

「あ？…冷たッ！」

　魔王の言葉で俺はやっと砲弾が凍り付いている事に気付いて手を放し、砲弾を地面に落としてしまった

「凍らせたんなら早く言えよ！」

「声を掛けたら手元が狂うと思ってな。口を挟む余地のない良い手際だ」

「はいはい、そりゃあどうも！」

「来るぞ」

「ああ！」

　海に並ぶ船団の砲口はこちらに向いていた