第10話 ヤツが見ている

 あの処刑ショーの後、今まで通り気ままに旅を続けていたのだが・・・


「またか」


 どこかしらから私に向けられるの怪しい視線


「おい! 西の炭鉱が一夜にして何者かに全て掘り返されたらしいぞ!」


「なんてっこった、オラの仕事がなくなっちまっただぁ!」


 周りで次々と起きる怪現象


「おい!アンタ何か知らないか! 噂の出所をよう!」


「大きな声では言えませんが、壊滅した盗賊団の中に家族が居たんです! 何か知らないでしょうか?」


「知らん! 私の茶の邪魔をするな!」


 行く先々で野盗の大量失踪、資源の強奪などの怪事件が起き、そのせいで行く先々の人が情報を仕入れようと旅人である私に話しかけてくる事が多くなった。そして、この前など駅馬車で御者に・・・


「お客さん運が良かったね、ついこの前まではこの道は危なくて通れなかったんですよ」


「なぜだ?」


「山賊ですよ。ついこの前までこの辺りをアジトにして住み着いてたんですがね、それがある日突然皆殺しってな事があって・・・」


「それは返って危険ではないのか?」


「まあ、その殺ったヤツがまだうろついてたら危険ですが、ここ数週間なんも音沙汰が無いと来たもんで、こうして道が開通したんですよ。おかげで移動時間が短くなりました」


「・・・・ついに先回りし始めたか」


「ん? お客さん何か言いました?」


「馬車に乗れる時間が短くなって残念だよ」


「ハハハ!そいつは残念ですね。景色もこっちの方が良いからそうわ悪いことばかりじゃありませんよ」


 ・・・などと言う様な事も多くなった。そして今私はある港町に来ていた


「良い海だ」


 白い砂浜、エメラルドブルーの海、観光地とういう訳ではないが海が穏やかな日は海が開かれ海水浴が出来る港町。油断すると波に流される危険があるとかで普段は閉鎖されているが今日は運が良かった


「お客さん、海水浴なら水着に着替えて・・・」


 普段着で立っていたら海の監視員に声をかけられてしまった。私を気遣うとはなんと滑稽な、私と海が殺し合うとして死ぬのは海の方であろう


「いやいい、少し海底を散歩しに来ただけだ」


「は?」


 そうして私は穏やかな海に向かってゆっくり歩きだし・・・


「お客さッ・・・」


「やめろー!」


 ・・・たところ、浜辺の監視員に止められる前に砂浜の下から飛び出してきた勇者に羽交い絞めにされ止められた


「ついに出てきたな!このストーカーが! 寝首を掻く気ならさっさと出てくれば良いものを! 離せクサレ勇者が!!」


「断る! てか俺が鬱陶しいからって入水自殺するか普通!?」


 こいつも分かっていない様だ。私が窒息程度で死ねると思うか?


「自殺?何を言っている? 私はただ貴様が追ってこれない海底に旅立とうとしただけだ!」


「行かせるか!」


 ええい!まとわりついて鬱陶しい!


「離せと言っている! 私は自由な大海原の底を、平穏に!静かに!旅をしたいだけだ!!」


「だから行くなよ! 行くなら俺も一緒に行ける場所にしてくれ!もう隠れたりしないから!」


「私達は天敵同士だろう! なんでそんな奴と一緒にならなけばならんのだ!」


「その天敵ぐらいしか昔話を話せる様なヤツが居ないだよ! 昔の仲間は死んじまったか、出世して社会的な事情でかかわれないし、昔助けた連中も会おうもんなら巻き込んで迷惑かけちまうっ・・・!」


「こっちも迷惑してるわ! ベタベタくっ付くな!気色悪い!」


「行かないでくれよ! もう俺にはお前しかいないんだよ~ぉ!!」


 くそ!本気で吹き飛ばしやりたいが、本気でやり合ったら私の正体が! しかし周りの視線も痛い


「ねえ、なにあれ?」


「痴話げんか?」


「でも男同士だぜ、アレ」


 せめて同性愛者の疑惑は晴らしておくか。私は女の形態をとったのだが、その際に体格の変化からか、勇者は混乱して力を緩めた


「うお!?」


「今だ!」


 私は勇者を突き飛ばした。まだ混乱している勇者は尻もちをつきながら言ってきた


「お前、女にも化けられるのか」


「私はもともと両性具有だ。胸が邪魔だから普段男の姿になっているだけだ、まったく・・・」


 さて、周りの反応は


「あれ?女の人だ、中性的な顔だけど」


「なんだ、男装していただけか…」


「あの男から隠れる為かな?」


 無事に誤魔化せた様だ。私は胸が苦しいので、首のスカーフを外してベストとシャツの首元のボタンを外した。少しは楽になったが胸が膨らんだせいでシャツが上にあがって腹が見えてしまっている、お尻も少しきつい


「ずいぶん、立派なモノをお持ちだな」


 勇者のそんな言葉を聞いて、私の怒りはさらに上がった。姿を変えているのだ、多少暴れても問題ない、ここで仕留めてしまおう


「触りたいのか?」


「はい!」


「なら望みどうりにしてやろう!」


 私は行儀よく正座をして姿勢を正した勇者に、横薙ぎにおもいっきり胸を叩きつけた


「ボフンッ!」


 しかし手ごたえが妙だった


「見切られたか・・・」


 この打撃は対鎧用の浸透系打撃の応用だ。鎧とは着用者との間にすき間を作り衝撃を緩和させるが、その隙間を初撃で潰し、さらにその力に抵抗しようと無意識に力が入ってしまうのに合わせ次の一撃を加える、そうする事で内部に浸透する打撃が可能なのだ。柔らかい物を使えば粘る様な打撃になり効果も高い


「おうふ!」


 この技は生身の人間にも応用でき、内蔵を破壊する事も出来る。それを勇者は私が脳を破壊しようと放った頭部への一撃を右乳による初撃が当たった瞬間に脱力し、次に来る右乳ごしに来る左乳の一撃の威力を緩和した


「グシャア!」


 しかしそれでも威力は絶大で勇者は吹っ飛んで行った


「ゴロゴロゴロ・・・」


 勇者はうつむきながら膝を着き、鼻血を出しながら頬を赤くし何かを呟いていた


「すげえ・・・、すげぇとしか言葉に出ねえ」

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