第7話 星明かりの下、月下の闇
互いに剣を向け合い対峙する、私と勇者
「せい!」
先に動いたのは勇者、私は彼の剣を我が剣の切先で捕らえて受け流しつつ突きを入れ・・・・
「ガジジジィィッ!」
「っ!!」
・・・・ようとしたが、勇者に
「おっと」
まあ、斬られる前に首を切り離して攻撃を躱したのだが。すると勇者は目を見開いて暴言を吐いてきた
「そんなのアリかぁ!? デュラハンかお前は!」
「全ての魔族を統べた余にこれしきの事など造作もない。あんな死神モドキの
勢いよく捕らわれた剣を引っこ抜き
「うおッッ」
勇者がバランスを崩した所に、自分の頭をわざと落として自分で勇者の顔面に蹴り飛ばした
「ゴン!」
そして跳ね返って来た私の頭を胴体で受け止めて跳ね上げ、元の場所にくっつける。勇者は転びながらも距離を取っていた
「なんて馬鹿力だ…、片手だって言うのに馬に乗った騎兵にランスで突かれたような手ごたえだぞ」
「フッ、私の力もあるが
「さっきまで首飛ばして遊んでた奴が何事も無いようにカッコつけて言うじゃねえ!」
まったく、ユーモアの分からん勇者だ
「そんな事より貴様も本気を出したらどうだ、ニワトリを愛でるだけが能ではあるまい?」
私の言葉に勇者は力強く言い放った
「悪いか! もともと俺は畜産農家だ!家畜育てて何が悪い!!」
「は?」
勇者はそう言い切った。いや待て、私を油断させる作戦…、でもなさそうだ。一瞬隙を見せた私に斬りかかってくる様子もない
「・・・本当に貴様はただの農奴なのか?」
「農奴言うな!これでも前は領主お抱えの大農家だったんだぞ!」
「そんな人間がなぜ勇者なんぞやっていた?」
「お前ら魔族軍が攻めて来たせいで領主様が亡くなって、残された聖剣で身を守っただけだ。ついでに農地を焼き払った貴様らに復讐よ!」
「そんな理由で魔族に牙をむいたと言うのか!?」
「そんな理由ってなんだ! 故郷が焼き払わたんだぞ!」
どうやら本気で言っているらしい。しかしまだ気がかりな事が有るが
「そんな事で、どうやって軍と張り合っていたのだ。戦略など分からぬであろう?」
「はん! 大抵の魔族軍なんてバカばっかじゃねえか、軍略練る様なインテリは同じくインテリ率いる正規軍丸投げして、俺はバカ共をブッ殺せばいい! ヤバくなったらさっさとトンズラよ!」
「確かに余も苛立つ様な愚者が多かったのは事実だが・・・・。そこまでやっておいて秘術を体得していないと言う事は無いだろう?」
「俺がマジックアイテムも無しに、そんなの使ったなんて話聞いた事あるか魔王?」
「・・・・無いな」
そんな報告、一軒も上がってこなかった事に気付いた。てっきり勇者の術を見た者は全員死んで報告が来ないもの思い期待していたのだが…。勇者はこう続けて言った
「そうだよ、つまり・・・・、こういう事さ」
勇者はニヤリと笑い、懐から何かを取り出した。気づいた頃にはもう遅かった
「なにっ!」
「偉大なるナンチャラかんちゃら様のお力によって! 聖なる力を持って我が前に立ちふさがる邪悪なる者を消し飛ばしやがりやがれ!」
勇者は
「バアアアアアアァァァァアン!」
辺りが光に包まれ轟音と共に城の天井が無くなり壁も崩れた。正確には違うが勇者にはそう見えただろう
「使い捨てのとっておきだ!思い知ったか魔王! しかし魔族だけじゃなくて城まで吹っ飛んでるじゃねえか。物理ダメージも有るならしっかり遺跡に書き残しておけよ、危うく
なにやら文句を言いながらひと息ついている勇者。当然私は死んではいない、そして”この満天の星空の下に居るにもかかわらず、自身に月明りが届いていない事にも勇者は気づいていない”様だ
「もう飽きた…、そのまま石詰めにしてくれる!」
「ブン!」
空を飛んでいた私は、天井ごと持ち上げた城の上部を勇者に投げつけてやった
「おいおい!嘘だろ!」
やっと気づいた勇者は、迫ってくる城の瓦礫を剣で切り払い続けた
「オラオラオラオラドラゴラソラトリャ!」
「ガン、ガガ、バン、バララン、ドガン!」
勇者は見事自身に降りかかる瓦礫をすべて払いのけた。その勇者に私は・・・・
「よく頑張った、褒美だ」
「ゴン!」
「うごッ!」
瓦礫を払いのけたものの、周りを瓦礫で囲まれ身動きが出来ない勇者を、私は真上からドロップキックを放って仕留めた
「あ」
「ガラガラガラガラ」
そして城の床が崩れ、私たちは犯全に倒壊した古城の瓦礫に埋る事となった
「ああ、まったく…。人類製のガタが来た骨董品の城だと言う事を考慮するべきだったな。服が汚れてしまったよ」
瓦礫から這い出し勇者を引き上げて、勇者の意識があるかを確認した
「おい、生きてるか」
「ああ…、殺さないのか?」
ボロボロではあるが、勇者はまだかろうじて動ける様だ。さて
「それは司法に委ねよう。それが貴様らのスタイルだろ?」
「魔王がぁ?人間側の司法で? 冗談だろッ、痛て!」
勇者はニヤリと笑った拍子に唇を割れてしまったようで、口を押えた
「いいや、だから大人しくしてもらう」
私は手を退かして・・・
「おいおい待てッ・・・・つ」
・・・・勇者の口に瓶を突っ込んで毒を無理矢理流し込み動けなくした。少々粘性の高い液体だが勇者なら大丈夫だろう
「ゴボゴボ!」
「よし、さっさと済ませよう」
私は勇者を縛り上げ、担いで町まで帰った。そして・・・・
「これより重罪人、トーマス・エルウッドの処刑を執り行う!」
・・・・大衆の前で、執行人に勇者は引っ張り上げられながらギロチンに固定されて勇者の処刑ショーのが始まろうとしていた
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