異世界でドワーフになりました。
俗悪
第1話 お馴染みの異世界転生
気が付いたら見知らぬ場所にいた。
そこはドラマなどで見た裁判所に似ていたが俺としては床や机、椅子の装飾や配置などから玉座の間を思わせた。
「ここは?」
「死後の世界、審判の間だ。」
俺は突然聞こえてきた声に驚いた。
すぐに声のした方に顔を向けるとそこにはさっきまでなかったはずの玉座に座った骸骨がいた。
骸骨は光を反射しない真っ黒な衣服を着て金でできた王冠の他、様々な装飾品を身に付けていた。
その声は青年のように若々しく明朗でありながら老爺のような深みがあった。
「死後の世界? 俺は死んだのか?」
「ああ、厳密にいうとここは死後の審判を行う場所で死後の世界そのものではないがな。それはともかく糸川将太郎、お前は確かに死んでいる。だが、それはこちらの手違いでな。」
「手違い?それよりお前は誰なんだ?なぜ俺の名前を知っている?」
「儂の名はビルトゥ。冥府の王にして死後の審判を司る神である。まあ、食事をしながら事情説明と行こうではないか。」
俺は不審には思ったもののビルトゥと名乗る神が嘘を吐いているようには見えなかった。
また断る理由もなかったのでビルトゥと名乗る神と共に食事をとることにした。
俺は案内された食堂ではテーブルの上に既に食事が用意されていた。
パン、サラダ、スープ、魚料理、肉料理、デザート、そして様々な酒が所狭しと並んでいた。
とはいえギリシャ神話や日本神話など死後の世界の食べ物を食べて帰れなくなったという話はよく聞くので食べても問題ないのか一応聞いてみたが問題ないとのことだったので信じるしかなかった。
そして食事が始まって少しした頃ビルトゥと名乗る神の話が始まった。
話によると俺は少なくともまだ後50年近く生きるはずであった。
しかし運を司る神ソルスとサイコロ遊びの神デキウスが俺ともう一人の命をチップに賭け事を行った。
そして二柱のうち俺をチップにしていたサイコロ遊びの神デキウスが負けてしまったため俺はその代償として死んでしまったと冥府の王ビルトゥは言った。
「完全に過失じゃねーか!!何が手違いじゃー!!」
俺が怒りのあまり思いっきりテーブルを叩いた。
そのせいで料理の幾つかが零れてしまったが俺はそんなにを気にする程冷静ではいられなかった。
完全にデキウスとソルスとかいう神々の過失だった。
しかも
これでは冷静で要られる訳がない。
「お前には何の落ち度もないのにな。本当にすまない。それでだ、今回の罪滅ぼしに儂の権能でお前を異世界に記憶付きで転生させようと思っておる。」
「えっ!?」
異世界に転生!?
もしかして剣と魔法のファンタジー世界に!?
「お前が考えている通りの異世界に転生させよう。もちろん転生先もお前の好きに決めると良い、異世界に該当する種族がいるかはわからないができるだけ希望に沿ったものにしよう。まあ、もし転生が嫌なら冥府で暮らすという手も......」
「転生でお願いします!!」
俺は一も二も無く転生を選んだ。
だって転生だよ!異世界だよ!ファンタジーだよ!
そりゃあ、こっちを選ぶよ。俺だって異世界転生物には憧れてたんだから。
冥府の王ビルトゥの話からするとさすがにチートは付かないようだけど限りなく俺の要望に沿った転生をしてくれるようだから大丈夫だろう。
俺が食いぎみに答えたからかビルトゥは少し引いた感じだったけど少しすると頷いて言った。
「そうか、ならここでお別れだな。次の瞬間にはお前は転生しているだろう。お前の新たな人生に幸多からんことを。」
ビルトゥがそう言って俺に手をかざしたかと思うと俺の意識は途絶えた。
「知らない天井だ。......いや、天井ですらないな。洞窟か、ここ?」
目を覚ますと目の前には知らない天井どころか建物の天井ですらない、ゴツゴツとした剥き出しの岩肌が目に入った。
異世界転生物なら真っ先に知らない天井か異世界の両親に会うのが鉄板なんだが俺の場合は少し違うらしい。
それに転生直後で言葉が話せるということは俺は赤ん坊ではなくある程度成長した状態の頃に前世の記憶が甦ったということだ。
まあ、そんなことはこれから先の人生には関係のないことだろうから置いておくとして、まずは転生した俺の状態と周辺調査をするべきだな。
俺の状態確認から、まずは糸川将太郎の自我が復活するまでの転生体の記憶があるか意識を集中して探ってみた。
そしたら直前までの記憶がちゃんと残っていた。それまでの経験や両親、知人、友人のこと、この世界の言語や常識については心配しなくても良さそうだ。
それと今の俺は12歳でドヴェルグ、俺が望んだ通りこの世界のドワーフに相当する種族に転生したらしい。
俺が転生先にドワーフを望んだ理由として、まず人間またはエルフを選んだ場合高確率で西洋系の顔になりそうで、元の日本人顔との違和感に馴染めそうになかったからだ。
亜人系は迫害の対象になってるかもしれないので元々選択肢から外してある。
その点ドワーフは迫害されないだろうし、最終的に髭もじゃの顔になるので顔の造形が元の顔と違い過ぎても違和感を湧きづらいのではないかと思ったからだ。
次の理由は単純にドワーフの体型が元の体型と似通っているので親近感があったためだ。
以上の二つから俺はドワーフを選んだのである。
さて、話を戻すが記憶を探っていたら現状に関するものが見つかった。
それで何で洞窟にいたのかというと俺は今、ドヴェルグの12歳の通過儀礼として明かりと食料を所持して単身で2日から3日かけて洞窟を踏破しなければならないという行事の真っ最中だったからだ。
洞窟内の地図も渡されているので踏破できないということはない。念のため護身用として棍棒も持参している。
なるほどな、この行事中であれば誰にも見られず転生できるし、転生前と多少人格に相違があっても通過儀礼中に心境が変化したんだと思われるだけで済むという訳か。
まだ1日目だからこれからゆっくり転生後の身体に慣れることができるだろう。
そしたら地図で最短距離を選びながら進んでさっさと行事を終わらせて異世界の家族と友達のところに戻るとするか。
ちなみにこの洞窟は事前に安全が確認されている洞窟であったため周辺を調べても危険物などは何も出てこなかった。
諸々の確認と周辺調査が終わり地図を見ながらしばらく一本道の洞窟内を歩いていると前方から生き物の声が聞こえてきた。
その声に聞き覚えはなかったものの、声の主の邪悪さだけはしっかりと理解でき、決して友好的にはいかないだろうことは容易に想像できた。
幸い洞窟内は遮蔽物がたくさんあったため声の主に気が付かれずに接近することができた。
そして都合良く俺の身体がまるまる隠れる程の大きさの岩があったので俺はその陰から声の主を盗み見た。
声の主は緑色の肌に尖った耳を持ち、俺と同じくらいの痩せ細った小さな身体をした人型の生物だった。というか見たまんまゴブリンだった。
俺は記憶からゴブリンという生き物について知識を引っ張り出した。
ゴブリンはこの世界において魔物に分類される生き物でファンタジー物よろしくドヴェルグを含む人類に敵対する生物である。
その性格は残忍で雄しか存在せず他種の雌を
また人を喰らうことでも知られている。
そのゴブリンは元々一人なのかそれとも現在仲間とはぐれているのか、一人で洞窟内を歩いていた。
時折、何か嫌なことを思い出したのか何事かわめき散らしながら暴れていた。またゴブリンは服を着ておらず、手には石でできたハンマーを持っていた。
俺はどうするか迷った。
地図によれば洞窟を踏破するにはこの道は絶対に通らなければならず、ゴブリンを避けて通ることはできない。
しかし、12歳とはいえまだ大人に成りきっていない身体ではゴブリンと真正面から戦うことは負けはしないまでも勝つことは難しいと言わざるを得ない。
故に俺としてはゴブリンがこのままいなくなってくれることが望ましいのだが、そのゴブリンがなかなかここから去る様子がなく居座っている。
俺はしばらく迷った後、ゴブリンと戦うことを選んだ。子どもでも奇襲すれば勝てる見込みはあると考えたからだ。
さて、人生初のゴブリン退治の始まりだ。
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