第5話 不審
翡翠色の液体を飲み干して、席を立ちトイレを目指す。個室に入って、ダイヤを取り出し光に青い涙をかざす。とたんに俺を深い失調感が襲う。なんだこれは。光の中で注意深くみるとこれが化学的な皮膜処理を施された人造石であることは明白だった。
俺は思考を巡らす。俺が仕事をしくじった可能性、そうでなかった場合の可能性。ダイヤをしまい、手を洗ってカウンターに戻る。本日2杯目のギムレットを注文して、先ほどの考えをトレースする。ゆっくりと味わいながら、一つの結論に達した。
店を出てマリオに電話する。
「やあ、マリオ。ベアトリーチェは元気かい?」
30分後、俺はマリオの経営するイタリアンレストランの奥のテーブルに座っていた。相対するのはマリオ。ニューヨークの裏の市長だ。
「それでは、カミーロについては俺の好きにさせてもらうよ」
「ああ。シニョール。それで構わない。ただ……」
「ただ?」
「若さゆえの過ちについては寛大な処置を」
「もちろんさ」
マットに電話をして任務完了を告げる。すぐに折り返しがあって、ブロンクス地区のイースト川に面した場所を指定してきた。2時間後と約束してイエローキャブを捕まえる。
水面の向こうにラ・ガーディア空港が見える人気のない倉庫街。商品の受け渡し場所だ。俺が到着してから10分も経たないうちに急に賑やかになった。数台の車に分乗した男たちが散る。1時間以上その場でじっとしていてから、そっとその場を離れ、表通りから指定の場所に近づいていった。
待ち構えていた男たちは3人。B級映画から抜け出してきたようなニンジャスタイルにぎょっとしている。
「商品は用意した。代金は?」
3人のうちの一人がアタッシュケースを開く。ぎっしりと詰まった
「それじゃ、さっさと済ませようか」
俺は用意してきたショルダーバックにドル紙幣を移す。手が切れそうな新札の束が25個が確かにあった。俺は青い涙を取り出し、男の一人に手渡す。
「箱はどうした?」
「商品は渡しただろ。包装は必要ないはずだ」
「ダメだ。箱もセットだ」
この回答で、俺の推測は確信に変わる。
ラシャ張りの箱を取り出した瞬間に、最初の発砲が起きた。
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