辞表と挨拶と同棲

保健室で抱き合った

三週間後の月曜日。


今までバレることなんて

なかったのに、その日、

教室に着くなり、一人の

クラスメイト・海藤が俺を見つけるなり

ボイスレコーダーを目の前に差し出した。


内容はあの日の俺達の会話。


クラス中に流れたソレにより、

イジメが始まった。


海藤はニヤリと笑っていた。


かといって、

やられっぱなしは性に合わない。


だから、態と放課後に

保健室に寄った。


**保健室**


『陸翔、クラスに俺達のことがバレた』


何処かでまた海藤が

聞いてるかも知れないと思い

聞こえるように喋る。


この分だと学校中にバレるのも

時間の問題だろう。


『困りましたねぇ』


声だけ聞けば困ってるように

聞こえるが表情は全く困っていない。


俺だって、切羽詰まったような

声を出してるが表情は笑いを耐えている。


『当分、会うのやめましょうか……』


一ミリも思ってないくせに。


わかってる。これが嘘だと。


『やだ』


だけど、出たのは

陸翔に

懇願するような声。


序でに泣いてみる。


これは、演技じゃなく

本当に出てきた。


『京太?』


俺の本泣きに陸翔が慌てた。


止まらないパターンだ……


嘘でも会うのやめようなんて

言われて本気で悲しくなったんだな。


『分かりました、

今すぐ辞表を校長に出して来ます』


涙を流しっぱなしの

俺の唇にキスをしてから

保健室のドアを開けた。


海藤は見える所にはいなかった。


数分後に陸翔は戻って来た。


『京太が卒業したら

親御さんに挨拶に

行かなくてはいけませんね』


校長がすぐに受理するかは知らない。


だけど、明日からは

学校で会えないんだな。


『陸翔、ごめんな』


理由はどうあれ、陸翔から

保健医という職を奪って

しまったことに変わりはない。


『京太、僕は後悔してないんですよ』


そう言われて、

一度止まった涙がまた流れた。


それを陸翔が舐めて拭った。


『学校で会えなくなりますが

僕が辞めたことで京太に

批難の声が飛ばないように

校長には一身上の都合ということに

してもらいましたから

安心して残りの学校生活を謳歌して下さい』


何処まで優しいんだか……


陸翔には敵わないな。


半年後、俺は陸翔と校長のお陰で

無事に高校を卒業した。


そして、今日は陸翔が

うちに挨拶に来る日でもある。


夕飯が終わる午後八時頃

玄関のチャイムが鳴った。


開けるとそこに立っていたのは

見馴れないスーツ姿の陸翔だった。


私服に白衣姿の陸翔は

格好よかったけど、

スーツだとまた一段と格好いい。


マジでヤバいくらい格好いいけど

見惚れてる場合じゃない。


『いらっしゃい陸翔』


脱いだ靴をきちんと揃え、

ついでに脱ぎ散らかした

俺の靴まで揃えてくれた。


『サンキュー』


小声で礼を言った。


「京太、そちらの方は?」


『話してなかったんですか?』


陸翔がクスっと笑った。


『いや……なんかごめん……』


話さなきゃとは思ってたんだが

なんというかタイミングが……と

これは言い訳だよな。


『大丈夫ですよ。


京太が言い難いのは

分かってましたから』


八つしか違わないのに

陸翔はちゃんとした大人だ。


俺はまだまだ子供で

それが悔しかったりする。


『挨拶に来ました

京太の恋人の垣屋陸翔と申します』


綺麗なお辞儀をした陸翔を

俺は横で見ていた。


「恋人……」


父親は困惑気味だ。


「あらあら、京太ったら

そうならそうと

先に言ってくれたらよかったのに……


すみません、今お茶の

用意しますから座ってて下さい。あなたもね」


母親は俺達をリビングに

追いやると座ってろと言った。


ついでとばかりに父親にも

同じ台詞を言った。


数分して母親は四人分の

お茶を乗せた

お盆を持ちこちらに来た。


「好みが分からなかったので

無難に緑茶に

してしまいましたけど

飲みたい物がありましたら言って下さい」


陸翔、父親、俺の順にお茶を配り

最後に自分の分のお茶を置くと

お盆を後ろのソファーに立て掛けた。


『ありがとうございます。


いただきます(๑^ ^๑)』 


終始笑顔の陸翔。


『それで、本題なんですが、

京太と一緒に暮らしたいと

思ってまして、交際の報告と

同棲の許可を頂きに伺いました』


陸翔は座ったまま頭を下げた。


なんか俺が嫁に

行くみたいな雰囲気だなぁ。


あぁ、ある意味間違ってないか……


「失礼だが職業は?」


『半年前までは

京太が卒業した学校の保健医でした』


陸翔は素直に答えた。


その言葉に二人は吃驚している。


「〈までは〉とは?」


あまり突っ込んで訊かないでほしい……


そんな俺の心情を悟ったのか

陸翔は半年前のことを

包み隠さず話した。


『今は無職ですが京太と

暮らすだけの貯金はあります。』


だから、同棲を認めてくれと

もう一度、二人に頭を下げた。


俺も陸翔に倣った。


話すこと一時間。


「分かりました。


京太は彼と暮らしなさい」


先に口を開いたのは母親だった。


「同性なのは吃驚だけど、

京太に恋人がいるのは

何となく感づいてたのよ」


そうだったのか……


父親は黙りのままだ。


しばらくして、父親が口を開いた。


「分かった、同棲を認めよう」


やったな‼


『ありがとうございます』


『父さん、母さんありがとう』


これでずっと陸翔と居られる。


一週間後、俺は家を出た。

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