第16夜 暗闇の中の子供たち

『サト江。君には《姉》がいるんだ』


 誰もいなくなった管理室の液晶画面から、鬼灯トントの優しい声が流れた。話しかけているのは、幼いサト江である。

『姉? 姉とはなんですか? 博士』

『君のような特殊能力を持たない、至って普通の人間の皮を被った人間の面をした、……君とは、血の繋がりのある家族だよ』


『博士』


『ああ。なんだい、サト江』


『それは―ー』


 ◇


『この研究に必要なのは、……一体、なんだと思うかね。サクラ君』

『私に提案がありますが。お聞きになりますか? 博士』

 

『何かなぁ? 怖いね、……なぁんか』


 向かい合い食事をしていたサクラが立ち上がった。

 そして、お腹に両手を当てた。


『私の膣を、お貸しましょうか?w』


『……ん?……ぇ?』


 ◇


『おぎゃあ! おぎゃあぁああ‼』


 ◇


『二ノ宮っくぅんンん。アタシなんかの研究に夫婦で手伝わせて、本当に済まないねぇ』


 母の代からの付き合いである二ノ宮夫妻。

 その夫である二ノ宮リヲは、母であったサト江に憧れ恋い焦がれて科学者の路にを選んだ。妻である二ノ宮リコも同様に、母であったサト江に憧れ、心酔するリヲも恋い焦がれて同じ路に。


『いいえ! 妻も、日頃より博士の為に何か出来ないかと申しておりますから、そんなご心配は要りませんよ!』

 そこへ、

『はい! っわ、私もでででででで、でっすぅうう~~』

 妻のリコも大きく顔を上下と頷いた。

『っな、なので! っそ、そのぉう~~……っふ、夫婦で話し合い、出した結果なのですがっっっっ‼』

 興奮するリコの様子にリヲへと視線を向けると。


『研究に人体実験は必要ではありませんか? 博士』


 はにかんだ表情を向けるリヲにトントも目を見開いた。

 交互に、二ノ宮夫妻を見て。


『破滅的で、……卑猥的な言葉だねw』


 トントは目を細めた。


 ◆


 たった1つの純粋な研究が、周りの多くの人生を狂わせた。

 突き進み破滅へと研究は――携わった研究員の全員の失踪によって。

 外へと漏れることもなく。


 歴史の闇の中に溶けてなくなったのである。


 研究の成果と結末を知らずに。

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