第ⅩⅦ夜 Dear,
僕は君にいくつか質問をするよ。
一つ目、君はどうして僕を怖がらない?
二つ目、君はどこからこの屋敷に来たの?
三つ目、君はなんの目的でこの屋敷に来たの?
四つ目、君は本当に何も知らなかったの?
五つ目、君はこの期に及んでも考えを変えない?
六つ目、僕が大好きなのはなんだい?
七つ目、――さぁ、最後の質問はなんだと思う?
◇◆◇
食いしん坊のグレーテルさん。
魔女もお兄さんも、みんな食べちゃった。
お屋敷に迷い込んだカボちゃの娘も、みんなみんな。
残ったのは一人ぼっちのお屋敷と。
食い散らかした食べカスばかり。
みんなみんな。
誰一人。
彼らの屋敷には誰もいない。
◆◇◆
「それでお前は一切れ食べたかぼちゃパイを私に食べさせようというわけだ。とんだ、サイコパス野郎だよ。親友にカニバリズムをさせようっていうんだ」
「……へん?」
「気が狂ってるとしか言いようがないね」
「そうか」
「お前は気狂いだよ」
「ボクには分からないんだ。どうして、あんなに食べたかったカボチャちゃんがこんなに美味しくないのか。どうして、どうして。今まで味わったことなんてない。いつも食べてたはずなのに。この気持ちは何。食べるたびに虚しくて堪らないんだ」
「……はぁ」
「どうして」
シン、と辺りは静まり返る。
向き合うはヒールで底上げした背の高い男と、カボチャ頭の伯爵。
「……お前は、子どもなんだよ。見た目こそそうであれ、子どものまんま変っちゃいない。永遠のピーターパン、ネバーランドがここさ。お前は人の恐怖で姿を変えることができる。お前を恐ろしいと思えば背の高い大男に見せることができる。けれど、お前の本当の姿というのは全く変わらない子どものまんま。それがお前」
彼のような彼女は、ゆっくりと瞬きをした。
「お菓子の家に迷い込んだ双子の妹、グレーテル」
この屋敷には彼らしかいない。
おんなじ顔の双子の兄妹は、二人で一人。
賢い兄と泣き虫の妹。空っぽの棺には誰もいない。彼女に見えている食人植物はどこにもいないのだ。――彼女が信じるモノは虚無でしかない。
「兄を食い、兄を取り込んで化け物になったお前は、歳を取らず死ぬこともなく、人の肉を喰って生き長らえる。血を啜り、肉を食べ、骨の髄までしゃぶり尽くす。何百年とこの屋敷に囚われた哀れな寓話」
本当のハッピーエンドはどこにある?
きっとここにはない。だって、この物語の最後には何も幸せなどないのだから。
ハッピーエンドは物語の中だけ。
現実には存在しない。
「お前に、質問を返そう」
「――お前の最後の質問は、」
「お前は後悔をした。初めて、人を食べてその行いを悔いた。お前にも人の心はあったんだ。そりゃ良かった。私もあの子をここに送った甲斐があったよ」
カボチャ頭の伯爵は、ポケットに入れてあった手帳を開き呪文を唱える。すると、キラキラと当たりが光り、その光の塊が段々と人の形を取る。
「私のカボチャたちは魂だけの仮初の姿をとっている。その肉体は、ぐちゃぐちゃになろうと四肢がもげようと復元することが出来る」
「さあ、お目覚め?
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