第Ⅷ夜 Blasphemia
「二ヶ月ぶりの僕だよ! 焦らしまくりだよねぇ。あぁ、勿体振り屋さんめ。今宵は楽しんでくれたまえ。まぁ、愉しめるかってその辺は保証しないけどね。あと、注意事項さ。今回出てくる薬品は色々調べて、白衣の天使な友達もいるし聞けば分かるのだろうけど現代医療にこだわらなくてもいいだろう、だってこれファンタジーだし。と、中世くらいにそれ用等で使われてた薬品でそれなりに、書いた結果なので細かいところは違うと思うが、まぁ気にしないでくれ」
「……なにこれ」
「なにって? あぁ、これはね、君が良い子になるまで躾をするための道具さぁ」
手錠、首輪、縄といった拘束のための道具と、鞭。ここまでは分かる。この男の捕らえた女を拘束、監禁し拷問する悪趣味をそれなりに理解している。男は私を「調教」すると言った。躾けて大人しくさせる、と。
気になるのは、瓶に入った液体だった。
それは三本あった。
「伯爵が君をボクに預けた理由の一つがこれさ。あいつはボクに面倒ごとを押し付けたんだ。……君のベースは死体だ。死んですぐならボクが美味しくいただくのだけど、だいぶ経っちゃった死体は不味くて美味くない上にお腹にゴミが溜まるのさ。ゴミ。君、排泄能力が無くなってだいぶ経ったろう。死んですぐならまだ筋力もあってボクたちが手伝いをしなくても良いんだけど、無くなっちゃってからはお腹は空いて食べるのに排泄が出来なくてお腹に溜まり続けるのさ。だから定期的に出してやる必要があってね。胃から上なら塩水で吐き出させる。小腸から下ならオリーブオイルを入れて滑りを良くして出す。ま、とりあえず腐っちゃってる可能性もあるから早々に吐き出すか流し出すかしないとね。エスカルゴも内蔵の中のゴミを取って食べるだろう?」
一瞬、頭の中が真っ白になった。何を言ってるんだ。そして、自分が衣服を何も着ていないことに気づく。全部脱がされて床にぺたりと座らせられていた。
足が鎖で拘束され、両手は後ろ手にされて手錠をかけられていて動けない。
「……ちょっと待っ」
真っ白くて血の気のない体は冷たく、男が触ってくる手の温度が熱く感じるほどだ。
「よし、飲みなさい。零したら鞭打ちね。こぼすごとに十回お尻を叩くよ」
「うぐっ」
まずい水が喉に入っていく。海の水をそのまま飲んだかような。
吐き出したかった。けれど零したら、なんて言われては素直に従うしかない。そのまま飲み続けて全部飲んだ時、男はそっと背中を撫でた。赤子がおっぱいを飲んだ時のように、優しい優しい声なのだ。
「うん! いい子いい子、よく飲めたね」
「うぇっ」
「ちよっと、まだ我慢してねぇ。まだ数分耐えてもらわないとお腹に行き渡らないだろう? ごっそり出してもらわないと困る。それに君は頭にすっぽりカボチャを被ってるんだから、うまーく吐いてもらわないと洗う手間がかかるんだよねぇ。だから、ボクのタイミングでちゃーんと吐いてね。ボクがいいよと言ったら吐く。ボクのことをよく聞くんだよ?」
男がカボチャ頭の上から私の口を押さえて鼻をつまんだ。逆流してくる何かが口の中に上がってくる。
その強烈な匂いで気持ち悪くなりながら。
「よし、吐いていいよ」
ぱっと離されて思いっきり外に出した。うえうえと吐き出して、この気持ちの悪いものを全部出したかった。
自分が出したものはぐっちゃぐちゃの形にならないものだった。鼻を突き刺す匂いが自分の体にこびりついていた。
「よし、もう一回」
「えっ」
と思った時にはもう口を押さえられていた。もう一回飲まされ続け、また繰り返す。
それを何度か繰り返して、もう何も出なくなった。床には自分が吐き出した物が散乱している。ドロドロのそれを眺める。
汚い、臭いもの。自分もそれに汚れている。
堪えようとすると男が無理やり口を開けさせるのだ。暴れても拘束されているまでは大した抵抗はできない。無理矢理、床に頭を押さえつけられて吐くように強制される。
ジタバタするたびに跳ねて飛んで自分の体にくっつくのだ。
「うっ……う」
もう、お嫁に行けない。穢れてしまったこの身がどんどん自分の吐瀉物で汚れていく。
「うん、やっぱり腐ってるのがあった。定期的に全部吐き出させたほうがいいか、食べたら全部吐かせるほうがいいか……。ま、いずれにしても一日に一回は必ずしなきゃいけないね」
男の指で喉の奥まで掻き出され、本当に何も残っていない確認が取れた後、男は新しい瓶を持って、そしてこう言った。
「よし、次は下から出そう。前屈みになって」
「えっ……、まだやるの」
口の中から液体が垂れた。流し込まれた液体が湯水のように溢れて止まらないのだ。
男はその様子を静かに見つめ、さも当然のようにこう言った。
「当然。まだ胃から下のゴミが残ってる」
「ヤダ、ヤダ、やめてよ……、ヤダ、ヤダ、ヤダ、やだ、ヤダ、ヤダ、ヤダ」
苦しい。怖い。恥ずかしい。
胃の中のものを全部吐き出したのに。黙って暴力に耐えたのに。親にだってこんな姿を見せたことはなかったのに。
こんなに惨めな思いをしているのに。
「私はご飯じゃないのに!」
「ご飯さぁ、ボクにとってはね。ボクがしているのは君への拷問じゃない。正確には調教ではないよ」
酸っぱい嫌な匂いが鼻を抜ける。口の中は苦い味が纏わり付いて吐き出せない。
吐き出したものは腐臭を放っている。
「食材の下処理さ。内蔵の中のゴミを全部とる。内蔵をかっぱらうよりもまず、生きた状態で下処理をさせる方が楽さ。あさりだって塩水を飲ませて砂利を吐き出させるだろう? それと一緒さ。君という食材に塩水を飲ませてゴミを吐き出させる」
「だからってこんなこと……」
「酷いかい? あぁ、君にとってボクは酷いだろうね。ボクは君を人間として扱っていない。ただの食材、または家畜。君はボクの家畜なのさ。家畜はボクに逆らえない。家畜とは、食べるものに飼われてご飯になるために生まれてきたのさ。……ボクは家畜に対して正しいことをしているだけ。人間だって家畜を食べる時はエゴに従い酷いことをするだろう? 脂肪をたくさんつけたいから動かさず、太った肝臓を食べたいから永遠チューブで餌を食べさせる。……それと同じさ。ボクは君が美味しくなるように準備をしている。……人の気持ちが分からないボクでも分かる。きっとそれは苦しいこと。けれど、ボクはそんなこと知らない。ボクは君の立場になりたくはないが、ボクは君じゃないのさ。……おおいに苦しめ、それで美味しくなるならばボクは大歓迎さ」
男は私の首輪を握って揺さぶった。首を絞められるこれが私は好きではない。
痛くて、自分がこの男に仕えなければならない隷属であることを思い知らされるからだ。
「ボクをご主人様と呼ばなくてもいいと僕は言った。理由は簡単。君は奴隷ではないからさ。奴隷以下の家畜。食われるための食材さ。だから君はボクを敬わなくてもいい。しかし、君がボクを敬いご主人と呼ぶのならば、……ボクは君の価値を家畜から奴隷に上げてあげるよ」
男の声は優しく告げる。
「さぁ、カボチャちゃん。お尻を上げて。突き出してくれないと正確に挿れられないのさ。ちょっと初めだけ痛いし気持ち悪いけど慣れると案外気持ちいらしいよ」
暴れても押さえつけられる。最終的には目隠しをされ、地面に懺悔するような格好にされ、惨めで悔しくて、そして何よりも屈辱的なことは。
「……よし、よしいい子。よし、少し我慢してね。うん。よく出たね。いい子だいい子」
この男が優しく撫でる声で安心してしまう自分に対してだった。
「うっ……うっうっ」
全部出してしまった、その屈辱と、解放された快楽。そして、それを自分にした男が目の前にいて、自分が辱められることを楽しみ眺めている。
「さぁ、ご主人様と呼ぶ気にはなったかい? 家畜は痛がっても余興だと思って楽しむが、自分の奴隷ならば少しくらい可哀想がる、それ程の優しさはあるはずなんだよ、ボクは」
「ご主人様と呼べば、これを辞めると?」
「……それはないね。家畜にしろ奴隷にしろ、ボクのそばにいる子が清潔であることは大切なことさ。君にはこれを一日一回はする。ま、慣れだね。本当は自分一人で出来るのが一番なんだが、うん、これを眺めるのも悪くはなかった。面白かった。特に虚ろな目でボクの指を咥える君の顔がとってもとっても、ゾクゾクした。興奮したよ。あぁ、そうだね。ボクのために毎日してあげるよ。ボクに奉仕をするつもりで、ね」
悪魔だ、人が苦しむのを嘲笑う悪魔だ。
「カボチャちゃん、あと君に課さなきゃいけないことはもう一つあってね」
男はもう一つ瓶を持っていた。とろっと粘っこいそれを男は私のお腹の上に垂らす。それを丁寧に伸ばしていく。くるくると撫でていく。その手の動きがむず痒くてさわさわと動くたびに背筋がゾクゾクと騒ぎ出す。
「……っぁ」
「こっちは大体の子が懇願してくる程にみんな好きなことらしくてね。飴と鞭でいう飴だと思ってくれ」
今宵の監禁はまだまだ終わらない。
「さぁ、
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