第8章 はびこる不安:出発の朝②
いったいどういうつもり…? ジャルドたちは護りを欲しがってるんじゃないの? ジーグがいる間は力を使えないとしても…私たちが護りをラシャに持って帰るのを黙って見てるはずなんてないと思ったのに、ここから誰も出さないなんて…しかも、力を返すってことは…。
「どう? 嫌なら別にいいよ。約束なんかしなくても、護りの石を探す邪魔をする気はない」
「しかし、リージェイクは別としても…現在この館におらん者たちはどうだ?」
「ヴァイにいる一族全ての者を心配してたらきりがないよ。涼醒君は同じリシールを感知出来るんだから、会いたくないなら彼らを避けて歩けばいい。せめて私たち継承者をここに閉じ込めておけば、二人が安心して護りを探せるかと思ってね」
「それは親切なことだな。だが、おまえがリシールではない人間を使うことも、ないとは言えまい?」
一瞬、
「ジーグ…一族の者以外の人間に私が頼る可能性があるなんて…そんな馬鹿げたこと、本気で考えてるのか?」
「確実にないと誓えるとでも?」
「当然だよ。この私が…あんな者たちの手を借りてまで成すべきことなど、何一つない。たとえ死の
「…よかろう。だが、条件は何だ? おまえが約束というからには、望むものがあるのだろう?」
ジャルドの
「大したことじゃないよ。ただ…教えてくれるだけでいい。予言されている世界の崩壊は、何が原因で起こるのかを、ね。ラシャは当然知ってるんだろう? でなければ、いくら護りが手にあっても、阻止するなんて出来ないはずだよ」
「たとえ護りを奪えようとも、世界が滅びれば元も子もないというわけか。おまえの
「ジーグの疑り深さにも
「ラシャの者である私との約束を
「私は…守れない約束に自分の力を
ジーグとジャルドは、互いの
浩司も…シキと…ラシャの者との約束を…。
キノは初めて、ジーグの
ジーグが静かに口を開く。
「ジャルドよ。おまえとの約束承知した。
当事者以外の4人が息をつく。ジャルドが喜々としてコーヒーを
「取引成立だな。後は…皆が間違いなく外へ出ないようにきつく言っておかないと、彼らは指導者を失うことになる」
「希音たちが安心して護りを探すことが出来るよう、あえて受け入れたが…おまえがこの約束を提示した理由は、崩壊の原因を知るためのみではなかろう」
「本当にそれだけだよ。ずっと知りたいと思ってたことだからね。
「そうだ。せっかくだから、M駅まで奏湖に送らせるよ。どこに行くにしても、
キノと涼醒が視線を交わす。
「奏湖、姉のようには無理でも、少しくらいは役に立て」
奏湖を
「いいよね、ジーグ。涼醒君がついてるんだから、何の力も持たない女の子一人にどうこうされる心配はないだろう?」
キノはジーグの返事を待つ。汐も奏湖も無言でいる中、涼醒が口を開く。
「ジャルド…そんな言い方はよせよ。継承者と比べりゃ誰だって無能さ。いくら妹だって、汐とこの
「イエルの者は優しいんだね。まあいいや。どっちにしろ奏湖は駅を通るんだから、一緒に行けばと思っただけだよ」
ジーグがキノを見る。
「手を借りるのは気が進まんが…どうするかはおまえたちが決めろ」
ジャルドのこの申し出は、
「涼醒…」
キノの
「女一人を警戒するわけじゃないけど、やめとこう。彼女もヴァイのリシールには変わりないからな」
涼醒の言葉に、ジャルドが高笑いする。
「よかったな、奏湖。おまえも私たちの一員と認めてくれるみたいだ」
奏湖が
「私は…」
「何だ? 言いたいことがあるなら、はっきり言え」
冷酷なジャルドの声に、奏湖が口をつぐむ。
その様子を見ていたキノは、奇妙な違和感を覚えた。
何だろう…? ジャルドを見る奏湖さんの
「もういい。下がれ」
部屋を出て行く奏湖の後姿が消えると、ジャルドが腰を上げた。
「希音さん。涼醒君。無事に護りを見つけて来れるよう…祈ってるよ」
差し出されたジャルドの手を取り、キノはぎこちなく微笑む。
「ありがとう」
「…気をつけて行って来てください。あなたは…世界にとって重要な役割を果たすべき人だからね」
キノの心に悪寒が
私を見つめる金色の
「私はあなたたちのような力もない、ただの人間だけど…自分に出来る限りのことはするつもりよ」
護りは必ずラシャに持ち帰る。あなたが何を
「では後ほど…護りを手にしたあなたと会えるのを楽しみにしてるよ」
二人の指先に込められる力が、同時に強まった。まるで、互いの
ジャルドと汐が部屋を去った開放感の中、キノたち3人は今日の予定を話し合った。
M駅からT駅まで出て、エクスプレスという列車に乗り、R市へ向かう。そして、護りのあるあの場所へ。
浩司の家への道筋がうろ覚えなことに気づいて焦ったキノだったが、ラシャでそれを聞いていた涼醒は、シキに頼んで浩司の持ち物から免許証を
「必要なものは全て
ジーグが二人を交互に見つめた。
「それにしても、
涼醒が携帯電話をを指で弾く。
「ジーグ…ジャルドは何であんな約束したの? 世界が崩壊する原因を知りたいからって、命まで
テーブルに置かれた地図の表紙に目をやりながら、キノが
「それだけのためとは思えん。ジャルドも馬鹿ではない。約束したからには、
「もし約束を破ったら…ジャルドは大人しく死ぬつもりなのかな…」
キノは浩司のことを考える。
「力を返させるって、無理矢理にでも出来るの?」
「正当な理由なしに、ラシャの者がリシールの力を奪うことは出来ん。だが、約束の結果としてならば可能だ。そうは言っても、要さずに越したことはない。ラシャにとっても、大きな損失だからな」
「継承者が減ると困るから?」
「そうではない…我々がリシールの力を返させるには、
「それじゃ…浩司も?」
「シキが承知している。力を返すという約束を交わす時に賭けられるのは双方の力だ。むやみにするほど軽いものではない」
キノはジーグの
シキに謝らなきゃ…。私、
「希音、案ずることはないぞ。護りはラシャに戻る。ジャルドも自らが言ったように、守れん約束をするほど間抜けではないだろう」
「大丈夫さ。24時間後には、護りを持ってラシャに降りてるからな。浩司の祈りも発動される」
涼醒がキノの肩を叩く。
浩司の祈り…。
「私、もう一度希由香に会って来るね」
キノは二人に微笑むと、続き部屋へと向かった。
キノは眠る希由香に何を伝え、何を確認したかったのだろう。それは本人しか知り得ない。そして、この時ジーグと涼醒が何を話していたのかをキノが知る時、その心はどんな選択を
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