第67話   ヒメからの報告書

 マデリンさんへ


 ガビィさんにも、この報告書を読んでもらってほしいので、渡しておいてください。お願いします。


 今日は諸事情により城下町へ下りて、果物を買いました。そのとき、白い仮面をかぶった「春の民」という人たちが現れて、街をめちゃくちゃに荒らしていきました。


 けれど、おかしいんだ。

 春の民は誰かを怪我させたり、何かをたくさん盗むようなことはしなかったの。

 兵士にやり返しもしなかった。ただ騒ぎを起こして逃げていっただけでした。


 彼らが着ていた白銀色の鎧は、シグマさんが着ている物と、型が似てた。けれど、これもおかしくて、春の民が着ていた鎧は何度でも剣を受け流してたの。

 シグマさんの鎧は、三回までしか身が守れないんだよね? じゃあ、シグマさんとそっくりな型の、別物だったのかも……どこかで調査ができればいいんだけどな。


 それと、これも私の予想に過ぎないんだけど、ガビィさんの部下の諜報技術をしのいでいる人たちの、見当が付きました。


 春の民です。


 伝書鳩は撃ち落とされて、手紙の内容は読まれていました。あなたが怪我をしていることも、春の民は知っていました。


 私のことも、知っていました。メイドさんに変装したのに、すぐに気づかれちゃったんだよ。あんなに人混みでごちゃごちゃしてたのに、わざわざ誕生日をお祝いするような言葉までくれました。


 春の民って、不思議な見た目をしているんだね。髪の毛に花が生えてて、目は虹色に輝いてて、肌の色は緑色だったんだ。

 あんなに目立つのに、どうやってエメロ国で姿を隠してたんだろうって、不思議でした。


 あ、今の私が思うにね、きっとエメロ人に変装してたんだよ。

 変装といえば、こっちにも強い味方がいるよね。毎朝、フローリアン王子にお化粧してくれる、あの人だよ。お客を変装させる職人さんなら、変装を見破るコツも、きっと知ってると思うの。

 それを教えてもらえたら、エメロ人に変装してる春の民を、見つけることができる予感がする。



 それと、シグマさんがすごかったんだよ! みんなが見つけられなかった春の民を、シグマさんはすぐに発見して、オレンジを投げて当てちゃったんだ。


 怪我人は出ちゃったけれど、また春の民が意地悪するのを、シグマさんなら未然に防ぐことができるかも。


 これからは、こんな紙でのやり取りじゃなくてさ、どこかで、時間を決めて、みんなで会おうよ。

 そのほうが、情報のやり取りがしやすいと思うんだ。マデリンさんは忙しいし、ガビィさんも忙しいのは知ってるよ。でも、ほんの短時間でいいの、私たちで、隊を組まない?

 ガビィさんが隊長ね! あなたなら、大勢の仲間とエメロ人をまとめることができる気がするから。



 追伸、マデリンさんへ


 信じてくれないかもしれないけれど、これでも反省しています。

 それとー、私でよければ、いつでも剣の稽古けいこの相手になるからね。

 あのときは、私はナイフを使っちゃってて、ちゃんと剣で戦っていなかった。次は、剣だけを使う。私も運動したいんだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る