第5話 才能があるかないか

 アヴィスが魔法学舎に来てから3ヶ月後。アヴィスはまだ魔法を使えずにいた。

「昨日よりうまく出来てます! もうちょっとです!」

 ルーチェは長い時間アヴィスと過ごした。そして彼に役立ちそうな本や資料を探した。

 ある日アヴィスは呟いた。

「やはりわたしには才能がないんだろうな」

 その言葉にルーチェは眺めていた呪文集を閉じ、アヴィスを見つめて彼の口から言葉が紡がれるのを待った。

「今まで黙っていたが、別の魔法学舎に通ったことがある。1つ目の学舎は2ヶ月ほどで退学になった。さらに別の学舎では数日で」

 ルーチェは黙って話を聞いている。アヴィスは続けた。

「もしわたしに才能がないのなら、正直に言って欲しい。退学処分が難しいなら自主退学する。だから……」

「才能のない人なんて、いませんよ」

 ルーチェは静かにアヴィスの言葉を遮った。その口調はいつもの自信なさげなルーチェのものとは異なっていた。

「私も時々、自分は魔法講師に向いてないんだろうなと思います。集団授業で教えるとき、自分の自信のなさが生徒たちに伝わっていることが分かるから。こういう仕事って自分に自信を持てるかどうかも重要だと思うんです」

 ルーチェはここで言葉を切った。そしてアヴィスの目を見て言う。

「でもある人が教えくれました。人にはそれぞれ適性があるって。私は賢い生徒を教えることはできないけれど魔法に疎い生徒や、魔法が使えない人に寄り添って教えることはできる」

 だから、とルーチェはアヴィスから目線を外して言う。

「諦めないでください。私も貴方が魔法を使えるようになるまで、諦めないので」

 ルーチェの言葉に、アヴィスは安堵の表情を浮かべた。

「さ、今日も張り切ってやっていきますよー! ちょっとずつでいいんですよ。毎日、きっと何かしら進歩があるはずですから」

 ルーチェはアヴィスの肩を強くたたいた。こうして他の講師や生徒が振り返るくらい盛大な爆発音などさせながら、彼女たちの授業がスタートした。

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