第180話

打ち上げが終わったのは、俺が店に着いてからちょうど1時間後のことだった。


店の前で通行人の迷惑にならないよう注意を払いながら集合写真を撮り、後ほどグループチャットにて写真を送信するという旨の話が撮影者からされると、打ち上げに参加した2-2のクラスメイトたちは、未だ残る文化祭の余韻に浸りながら、それぞれの家に向かって静かに去っていった。



「それじゃあ、晴人。またね」


輝彦の隣に立つ誠が、こちらを向いて手を振る。



「じゃーな、晴人。夜道には気をつけろよ」


輝彦も、そう言ってウインドブレーカーのポケットに突っ込んでいた手を軽く上げる。



「あぁ、またな」


俺はそんな2人に向かってそう短く言葉を返すと、2人とは反対方向に足を向け、店から漏れ出る光や街灯、自動車のヘッドライトに照らされる通りに向かってゆっくりと足を進めた。



そうして賑やかな歓楽街をしばらく歩き、よく見知った通りに差し掛かると、途端に喧騒が遠くなった。


真昼のような人々の笑い声や自動車の走行音は聴こえず、どこからか微かに鈴虫の鳴き声が聴こえてくるだけ。


ふと深く息を吸ってみると、夜の澄んだ匂いがした。見上げる空には無数の星が散りばめられ、火照った体に当たる夜風は心地いい。


そんな繰り返しやってくる夜を全身で感じながら、俺は今日を振り返る。



輝彦たちと文化祭を周り、葉原から蒼子がいなくなったことを聞き、上履きのまま街を駆け回り、彼女を見つけ、そして……


——蒼子に想いを伝えた。



決して、良いことばかりではなかったけれど、それでも俺は今日の出来事を忘れない。

きっといつの日か、後悔も失敗も貴重な財産となる日が来ると、そう強く信じている。


俺は自分の胸にそんな言葉を響かせながら、夜と共に家路を辿る。

夜空に輝く星々に、肌を撫でる夜の風に、「急げ急げ」と背中を押されるようにされながら——。



こうして俺たちの長い長い1日は、夏の終わりのようにゆっくりと、幕を下ろしたのだった。

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