第177話
学校を後にし、打ち上げ会場となっている焼肉チェーン店に着いた時にはもう、時刻は20時を回っていた。
予定より少し遅くなってしまったが、この時間ならまだ、あいつらも帰ってはいないだろう。
そんなことを考えながら、俺は入り口の扉を引いて店内へと入る。
すると、入り口のすぐそばにあるレジカウンターの方から若い女性店員の声が飛んできた。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「1名です。あの、先に何人か来て集まっていると思うんですが……」
そう言って、俺は店の予約をしたであろうクラスメイトの名前を店員に告げる。
「はい、かしこまりました。では、ご案内いたします」
若い女性店員は丁寧な口調でそう返すと、にこやかな笑みを浮かべ、店の奥に向かって歩きだした。
店員について歩いている間、辺りを軽く見回してみると、やはり日曜の夜ということもあって、店内には家族連れの客が多く見受けられた。あちこちから肉の焼ける香ばしい音と匂い、それと賑やかな笑い声がいくつも聞こえてくる。
するとその客の中に、俺と同じ制服を着た集団を見つけた。
どうやらうちのクラス以外にもここで打ち上げを行なっているクラスがあるらしい。見たことがない奴が多いから、おそらく1年生か3年生だろう。
そんなことを考えていると、前を歩いていた店員が6人掛けのテーブル席の前でぴたりと足を止めた。
「こちらになります」
そう言って手で示された方に目を向けると、そこには先ほど学校で別れた輝彦と誠に加え、他3名のクラス男子の姿があった。
「おぉ、晴人! 約束通りちゃんと来たな」
真っ先に俺に気づいた輝彦がそう声を上げると、続けて輝彦の向かいの席に座っていた誠も声を上げた。
「おつかれ、晴人。待ってたよ」
俺はここまで案内してくれた店員に礼を言ってから、手招きする輝彦の隣の席に腰を下ろす。
「待たせて悪かったな」
「気にすんな。とりあえず肉食え! 肉! 美味ぇぞ!!」
そう言って晴人は日に焼けた顔に笑みを浮かべながら、網の上で焼かれた肉を次々と俺の皿の上に乗せてくる。
昔、親戚の集まりに参加した時、確かこんなノリのおっさんがいたな、なんてことを思いながら、俺は目の前のコップに注がれた水で一度喉を潤し、それからタレをつけた肉を口へ運んだ。
どうやら2-2の他の奴らは、俺たちの近くのテーブル席に座りながら、同じように談笑しつつ肉を囲んでいるようだ。喧騒に混じって、聞き覚えのある声がいくつも聞こえてくる。
……今回の文化祭は、部の方に掛かりっきりで、あまりクラスの方に貢献できなかった。それなのに、こうして打ち上げにはしっかり参加していることを考えると、正直申し訳ないと思う。
そんな少しばかりの罪悪感を感じていると、テーブルを挟んで前の席に座る誠が小さく口を開いた。
「それで、白月さんは?」
俺はそう尋ねる誠をちらりと見つめ、口の中のカルビを飲み込んでからそれに答える。
「……あぁ、あいつは——」
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